空襲で焼け死ぬ前に一度セックスしてみたい……二階堂ふみが演じる戦時下の青春『この国の空』
#映画 #パンドラ映画館 #長谷川博己 #二階堂ふみ
「私はこのまま結婚もせず、死んでいくのかしら」。19歳になった里子は空襲警報を聞きながら、ふとそんな考えがよぎる。男と愛し合うことも知らず、私は処女のまま死んでしまうのね。そんなことを考えているうちに、里子の頭の中は真っ白になってしまう。二階堂ふみ主演映画『この国の空』は太平洋戦争末期の東京を舞台にした官能系青春ドラマだ。連日のように空襲が続き、本土決戦が叫ばれている。広島には新型爆弾が投下されたらしい。もうすぐ、みんな死んでしまうかもしれない。それなら、死ぬ前に想いを寄せる男性に一度でいいから抱かれたい。戦争に対する恐怖と性への好奇心が心の中で激しく葛藤する主人公・里子に、沖縄出身の人気女優・二階堂ふみがヌードシーンも厭わず成り切ってみせる。
1945年3月の大空襲で東京の大部分は焼け野原になってしまった。里子(二階堂ふみ)が母・蔦枝(工藤夕貴)と暮らす杉並区善福寺一帯は空襲の直撃は免れていたが、若い男たちは徴兵され、子どもたちは田舎に集団疎開してしまい、女性と年輩の男しか残っていない。まるでセミの抜け殻のように、町は活気を失っていた。里子はそろそろ縁談話が持ち上がってもいい年ごろだったが、どこにもその相手がいない。そんな中、里子は隣に住む銀行支店長の市毛(長谷川博己)のことが気になり始める。38歳になる市毛は妻と子どもを田舎に預け、ずっとひとり暮らしを続けていた。時折、敵性音楽であるバイオリンをこっそり演奏したりしている。留守がちな市毛に配給品を届けたり、市毛に頼まれて部屋を片付けているうちに、里子は既婚者である市毛との禁断の恋にどうしようもなく引き寄せられていく。
おしゃれな現代っ子のイメージの強い二階堂ふみだが、昭和初期の「~ですわ」という丁寧な言葉遣いと質素なファッションが逆に新鮮に映る。レトロな開衿シャツに亡くなった父親の遺品を仕立て直したと思われるズボンを組み合わせたシックなコーディネイト。防空頭巾ですら、チャーミングに着こなしてみせる。そんな二階堂ふみが演じる里子の、戦時中という非常時の日常生活が描かれる。娘の嫁ぎ先に疎開することになったご近所の木南さん(石橋蓮司)のところに転出届けを渡しに行き、お礼に貴重なブドウ糖をもらう。甘い物に飢えていた里子は手に付いたブドウ糖の粉を舐め、小さく笑みをこぼす。空襲で焼け出された伯母の瑞江(富田靖子)を居候させることになるが、日に日に少なくなる食事をめぐって母は伯母とすぐケンカになる。その度に里子が間に入って仲裁しなくてはならない。庭に植えたカボチャやトマトに、モンペ姿でかいがいしく柄杓で肥えを掛けるのも里子の役目だ。里子が物心ついたときから日本は戦争をしていたので、もうすっかり戦時下の慎ましい生活が身に付いてしまった。
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