これはドキュメンタリーなのかドラマなのか? 『廃墟の休日』で交差する日常と非日常
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もともと「ジョン・T」の指示は、“廃墟の王様”である軍艦島ではなく、その隣に浮かぶ中ノ島だった。「海が荒れていると上陸できない」ことから、2人はいったん軍艦島に上陸したのだ。中ノ島は、その軍艦島から船で5分程の無人島である。軍艦島があまりにも有名なため注目されないが、「忘れられた」という意味では、より廃墟度が高い。「また夕方に来るけんね」と船頭が言い残し去って行くと、安田は「夕方に来てね!」と念を押す不安げだ。それもそのはず、島はジャングルのように自然が生い茂った、文字通りの無人島なのだ。足元を動き回る数多くのフナムシなどの虫を目の当たりにして、安田はひとつの結論を下す。
「生活の名残を感じさせるのが廃墟。再生が始まって、虫とかいきものが住み始めるのが遺跡」
なのではないかと。
かつて、この島には火葬場と公園があったという。軍艦島の住民の憩いの場であり、死後、ここで火葬されていたのだ。
「なんで軍艦島に火葬場を作らなかったのだろう?」と野口が疑問を口にすると、安田は朽ち果てた火葬場の跡を眺めながら言った。
「軍艦島で生まれて亡くなった時に、ここで魂になった時、これ(この風景)を見せてあげたかったんじゃないか」
確かに、そんな想像力を喚起させるほど、中ノ島から見える軍艦島の姿は美しかった。朽ち果てた廃墟の姿は、あまりにも非日常だ。しかし、かつてそこにも、確かに日常があった。廃墟に残された断片から、その日常を想像することができる。
『廃墟の休日』は、廃墟をただ歩くドキュメンタリーと、廃墟を背景にエチュードを繰り広げるスケッチが交差する構成だ。それはまさに日常と非日常が交差し、ないまぜになっているかのようだ。この番組のジャンルが一体なんなのかが曖昧なように、非日常と日常の境目が曖昧になっていく。いわば、『廃墟の休日』は日常と非日常、フィクションとノンフィクションの境界を巡る旅なのだ。
「すげえ非日常だな……」
神秘的な廃墟の光景を眺めてそうつぶやいた安田は、わずかに沈黙した後、
「ブッ!」
と、豪快におならの音を廃墟に響かせた。
(文=てれびのスキマ <http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/>)
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