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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム >  パンドラ映画館  > 辺野古の実情を追う『戦場ぬ止み』
深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.331

基地問題が抱える“いちばん恐ろしいもの”とは? 辺野古の実情を追うドキュメント『戦場ぬ止み』

ikusabanu02.jpg基地反対派の人たちは、翁長知事の当選に大喜び。これで基地問題は解決に向かうと彼らは信じたが、東京の政治家たちの対応は冷たかった……。

 高江のヘリパッド建設問題と市民による普天間基地全ゲート封鎖事件を中心に描いた『標的の村』の劇場公開から2年、『戦場ぬ止み』ではジュゴンやサンゴが生息する大浦湾の埋め立て工事が“粛々と”進む辺野古の現状が全面的にクローズアップされる。辺野古に配備されるオスプレイ100機は“標的の村”高江で実地訓練が行なわれることになっている。高江、辺野古、そして普天間はひとつに繋がっている問題なのだ。辺野古にある米軍キャンプシュワブのメインゲートでは、85歳になる文子おばぁが基地建設の資材を運び込むトラックの前に立ちはだかる。機動隊員に押されても「一緒に引かれようよ」と動じない。文子おばぁが15歳のときに沖縄に米軍が上陸し、凄惨な地上戦が繰り広げられた。壕の中に身を隠していた少女時代の文子おばぁは、米兵が投げ込んだ手榴弾と火炎放射器で左半身に大火傷を負った。幼い弟を庇った母親は全身大火傷となった。終戦後は障害の残る母と弟を養うために、がむしゃらに働いた。「生きてて楽しいことはひとつもなかった」という文子おばぁは、迫るトラックも機動隊も怖くない。それよりもみんなが戦争のことを忘れ、沖縄が再び戦場になることが恐ろしい。基地反対運動に関わる沖縄の人々の素顔をカメラは映し出していく。

 『標的の村』が琉球朝日放送制作だったのに対し、基地のゲート前に貼られた琉歌の一節から付けられた『戦場ぬ止み』は三上監督の自主映画に近い形で作られたものだ。『標的の村』大ヒット後の2014年、三上監督は開局以来19年間勤めた琉球朝日放送を退職し、フリージャーナリストとして『戦場ぬ止み』を撮り上げた。

「うれしいことに『標的の村』は全国560か所以上で自主上映されるほどの大反響がありました。週末の休みを利用して舞台あいさつなどに参加していたので、『標的の村』のヒットが会社を辞めた直接的な理由ではないんです。『標的の村』の劇場版を編集しているときから、局は辞めることになるだろうなとは考えていました。40歳過ぎるとデスクワークを求められるようになり、現場は若手に譲るようにという風潮がテレビ局にはあるんですね。まぁ、そんなのを無視して、現場にこだわり続ける破天荒なテレビマンはどの局にもかつてはいたんですが、そういうのが難しくなってきているように感じます。多分、テレビ局に限ったことではないと思うんです。この10年くらいで日本社会全体がだんだん息苦しくなってきている。表現の自由が狭められてきているんじゃないでしょうか。19年間かなり好き放題にやらせてくれた琉球朝日放送には感謝していますし、スタッフと一緒に取材していた頃はとても恵まれていたなって思います。でも、今はひとりで取材するしんどさよりも、自由に取材できることの喜びのほうが勝っていますね(笑)」(三上監督)

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