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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.329

これはインドネシア版『ゆきゆきて、神軍』か? 虐殺者たちとの対話『ルック・オブ・サイレンス』

los-movie03.jpg母親はアディのことが心配で堪らない。だが、アディは兄の死の真相を知ることで、自分自身のアイデンティティーを手に入れることになる。

ジョシュア「確かに自宅を訪問して回るというスタイルは同じですね。でも、『ゆきゆきて、神軍』の奥崎謙三さんとアディはまったくキャラクターが異なります(笑)。言葉は適切じゃないかもしれないけど、奥崎さんは暴力人間です。奥崎さんは事件の真犯人を暴き出し、みずから罰しようとする。でも、アディは違います。アディは加害者たちを責めるつもりはなく、彼らが兄の死に対して罪悪感を感じているのなら和解するつもりで訪ねて回っていたんです。アディが奥崎さんみたいな攻撃的なキャラクターだったら、僕はきっと映画にはしていなかったでしょうね。『ゆきゆきて、神軍』は歴史の暗部に言及した内容ですが、その点でも違います。『ルック・オブ・サイレンス』は今もインドネシア社会を覆っている現在進行形の問題を扱っており、その解決の糸口を探し出すためのものなんです」

 前作『アクト・オブ・キリング』が米国でアカデミー賞長編ドキュメンタリー部門にノミネートされ、多くの国で注目を集めたことから、インドネシア政府はようやく重い口を開き、虐殺の事実があったことを部分的に認めるようになった。危険な取材を敢行したアディとその家族は、虐殺者たちと一緒に暮らしていた町を離れ、安全な地域に引っ越したそうだ。支援者たちの後押しもあって、念願のメガネ店を近々開くことも決まったという。ドキュメンタリー映画が現実社会を動かすことに成功したわけだ。だが、だからといって安心することはできない。客席で映画を観ている我々も、いつ“沈黙の檻”に閉じ込められるか、虐殺を黙認する立場になるか分からない。すぐにタブーを生み出してしまう日本人はとりわけ気をつけたい。
(文=長野辰次)

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『ルック・オブ・サイレンス』
製作総指揮/エロール・モリス、ヴェルナー・ヘルツォーク、アンドレ・シンガー 製作・監督/ジョシュア・オッペンハイマー 共同監督/匿名 撮影/ラース・スクリー 配給/トランスフォーマー 7月4日(土)より渋谷シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
(c) Final Cut for Real Aps, Anonymous, Piraya Film AS, and Making Movies Oy 2014
http://www.los-movie.com

最終更新:2015/07/02 18:00
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