児童虐待、学級崩壊、独居老人にどう対処する? 『きみはいい子』の教師が考えた風変わりな宿題
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学級崩壊とネグレクト問題を扱った「サンタさんの来ない家」の主人公・岡野(高良健吾)は、小学校に勤める新人教師だ。平凡だが、温かい家庭で育った岡野は、安定した職業として教職を選んだ。高良健吾の代表作『横道世之介』(13)のお調子者・世之介みたいに気のいい男だが、どこか社会に対してまだ甘えがある。4年生のクラスを任され、それなりにやる気のあった岡野だが、学校の決まり事や親からのクレームにがんじがらめにされ、ヘトヘトになる。男女差別に繋がるから、生徒は男子も女子も“さん”づけで呼ばなくてはならない。“くん”づけで呼ぶと、学年主任から注意される。子どもに話し掛けるときは、怖がらせないようにしゃがみこんで、子どもと同じ目線で話すよう指導される。生徒に声を掛けるだけで、ひどく神経をすり減らしてしまう。授業中におしっこを漏らした生徒がいたので、大急ぎで床を拭いた。親から感謝されるかと思ったら、「先生を怖がって、おしっこを我慢したせいだ」と逆に責められた。岡野がルールやクレームに縛られていることを子どもたちはすぐに見抜き、授業中は私語が絶えず、「トイレに行く」と言って教室を抜け出す子どもたちが増える。イジメも目立つようになってきた。もう岡野の手には負えない、学級崩壊だった。
だが岡野は、学級崩壊よりも恐ろしい事実に気がつく。クラスでいつもポツンとひとりでいる男子生徒の神田さんは、なぜか土日も学校に来ている。よほど学校が好きなのかと思っていたが、そうではなかった。神田さんは給食をよくお代わりして食べていたが、それは親から食事を与えられていなかったからだった。給食費も滞納しており、親を呼び出そうとしても仕事が忙しいことを理由に姿を見せようとしない。フツーの家庭で育った岡野にとって、親から食事を与えられない子どもが目の前にいるという事実はショックだった。心配した岡野が神田さんを連れて自宅アパートを訪ねると、パチンコ屋に通う義父(松嶋亮太)から「家庭の問題に口を出すな」と追い返されてしまう。岡野は自分の無力さがホトホト嫌になる。
岡野が教壇に立っても、子どもたちはいつものように落ち着きがなく、騒いだままだった。そこで岡野は風変わりな宿題を出すことにした。それは「今日、家に帰ったら、家族の誰かにぎゅっとしてもらうこと」というものだった。子どもたちはざわつき、「ヘンタ~イ! ヘンタ~イ!」と囃し立てる。だが、刮目すべきは翌日の教室のシーンだ。このシーンは、手持ちカメラによるドキュメンタリータッチでの撮影となっている。高良の出演パートは順撮りで行なわれ、教師役を演じた高良とロケ地となった北海道小樽市に暮らす児童たちとのやりとりを自然な形でカメラに収めている。前日、高良から宿題を言い渡された子どもたちの表情を、カメラは一人ひとり映し出していく。「ぎゅっとされて、どんな気持ちになった?」と高良に尋ねられ、子どもたちは「不思議な気持ちがした」「温かかった」「赤ちゃんのときみたいだった」「安心した」とそれぞれ脚本にはない自分の言葉で答える。子どもたちは照れながらも、うれしそうな素の表情を浮かべる。それまでにはなかった活気と明るさで教室は覆われていた。
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