江戸川乱歩の人気小説『パノラマ島奇談』の実写版『天国と地獄の美女』の肉欲の宴が忘れられない!!
お正月の3時間特番としてお茶の間に届けられた『天国と地獄の美女』では、人見広介の、いや江戸川乱歩が夢想したユートピアの世界が具体的に映像化されている。菰田源三郎に成り済ました広介(伊東四朗)は源三郎の若妻・千代子(叶和貴子)を連れて、出来上がったばかりのパノラマ島を案内する。海底トンネルでは魚たちが回遊する様子が一望でき、巨大水槽では人魚たちの群舞かと見間違える妖艶な水中バレエが繰り広げられている。珍しい動植物たちが生息する地底の大平原をさらに進むと、最上層にある神殿では様々な人種の裸女たちが歌い踊っている。そこはエロティックさを極めた快楽のテーマパークだった。そして千代子はこの楽園の美しき女王さまとして祭り上げられる。本作の主人公はパノラマ島そのものであり、明智小五郎はパノラマ島で起きた出来事を視聴者に伝える語り部に過ぎない。
本作を含め、天知茂主演作全25本のうち19本を演出したのは映画黄金期を支えた職人気質の井上梅次監督。京マチ子主演のミュージカル映画『黒蜥蜴』(62)などの乱歩作品を撮り、乱歩とも面識があったことから、製作会社の松竹に請われ、“江戸川乱歩の美女シリーズ”の初代ディレクターを務めた。放送が始まってまだ間もなかった「土曜ワイド劇場」には既成のテレビドラマとは異なる、プログラムピクチャーを思わせる独創的な面白さと猥雑な熱気があった。脚本は、ナイトクラブの専属歌手からシナリオライターへと転職したジェームス三木。“江戸川乱歩の美女シリーズ”では『黒蜥蜴』のリメイク『悪魔のような美女』(79)や夏樹陽子の裸体が眩しい『エマニエルの美女』(80)の脚本も手掛けており、どれも評価が高い。理想郷づくりに主眼が置かれていた乱歩の原作に対し、『天国と地獄の美女』では伊東四朗の片目をくりぬくなどのグロテスク描写を盛り込む大出血サービスぶり。隻眼に対するジェームス三木のこだわりは、のちにNHK大河ドラマ『独眼竜正宗』(87)として結実することになる。音楽は、石井輝男監督のカルト映画『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』(69)にも参加していた鏑木創。そしてノンクレジットながら、駆け出し時代の三池崇史監督が助監督のひとりとして現場に入っていたことでも知られる。三池監督の自伝『監督中毒』(ぴあ出版)によると、『天国と地獄の美女』の撮影現場で井上監督に仕事ぶりを認められたことで、自分の居場所がつかめ、楽に仕事ができるようになったとある。やはり、パノラマ島は異能な人々が集まる桃源郷であるようだ。
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