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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム >  パンドラ映画館  > 是枝監督最新作『海街diary』
深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.325

喪失感を抱えた美しきユートピア『海街diary』食卓に並ぶ家庭料理に溶け込んだ家族との思い出

uchimachi03.jpg海猫亭の二ノ宮さん(風吹ジュン)と山猫亭のマスター(リリー・フランキー)。どちらの店も海街の人たちには欠かせない憩いの場だ。

 『海街diary』を観ていて、小津安二郎監督の『東京物語』(53)を彷彿する人も少なくないはずだ。『東京物語』は長きにわたって日本社会の基盤だった家族制度が戦後の復興と入れ替わるように崩壊してしまったことを描いていたが、是枝監督は『東京物語』と同じような静謐なドラマ『海街diary』で柔軟性のある新しい家族像と周囲からそれを支えるコミュニティの重要性を提示している。また、『東京物語』に戦争の影が差し込んでいたように、『海街diary』にも大きな影を感じさせる。原作の連載がスタートしたのは2006年だが、喪失感を抱えた人々が寄り添うように暮らしている海街の光景は、この映画が3.11後に作られた作品であることを観る者に意識させる。是枝監督は原作の第1巻が発売された2007年に映画化を思い立ったそうだが、然るべきタイミングでの公開になったのではないか。

 四姉妹がこれからどうなっていくのかは定かではない。いつまで古い一軒家でユートピアのような暮らしを続けられるかも分からない。多分、数年後には四姉妹のうち、誰かが抜けることになるだろう。それでも彼女たちは、ちくわカレーやしらすトーストといった家庭料理を口にする度に、自分が一緒に過ごした家族のことを思い出さずにはいられない。そして彼女たちは新しく見つけた自分の家族に、思い出のメニューを振る舞うはずだ。そのとき新しい家族はどんな表情で、そのメニューを口に運ぶだろうか。喪失感は癒されるだろうか。
(文=長野辰次)

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『海街diary』
原作/吉田秋生 監督・脚本・編集/是枝裕和 音楽/菅野よう子 撮影/瀧本幹也 出演/綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆、広瀬すず、大竹しのぶ、堤真一、加瀬亮、風吹ジュン、リリー・フランキー、前田旺志郎、鈴木亮平、池田貴史、坂口健太郎 
配給/東宝、ギャガ 6月13日(土)より全国ロードショー 
(c)2015吉田秋生・小学館/フジテレビジョン 小学館 東宝 ギャガ
http://umimachi.gaga.ne.jp

最終更新:2015/06/05 19:19
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