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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.325

喪失感を抱えた美しきユートピア『海街diary』食卓に並ぶ家庭料理に溶け込んだ家族との思い出

uchimachi01.jpg綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆、広瀬すずが姉妹を演じた『海街diary』。是枝裕和監督らしい、喪失感が漂う静謐な作品となっている。

 一見すると、海辺のその街はとても静かで、自然とうまく調和しており、そこで暮らす人たちはみんな親切で優しい。事件らしい事件は起きず、四季に彩られた1年間がゆったりと過ぎていく。人気漫画家・吉田秋生の同名コミックを、是枝裕和監督が映画化した『海街diary』は美しい四姉妹が暮らすユートピアの物語だ。姉妹はお互いをいたわり合うが、よく見ると彼女たちの足元には埋めがたい喪失感が流れていることに気づく。喪失感を抱えている者同士ゆえに、彼女たちは結びついていることが分かる。

 『海街diary』は是枝監督の代表作『誰も知らない』(04)と同様に、親から捨てられた子どもたちが主人公だ。1988年に発覚した巣鴨子供置き去り事件を題材にした『誰も知らない』では母親(YOU)が出ていった後の一家を、長男(柳楽優弥)と長女(北浦愛)が父親・母親代わりになって幼い兄妹の面倒を看た。『海街diary』では姉妹の長女である幸(綾瀬はるか)が、離婚をきっかけにそれぞれ家を出ていった両親の代わりを務めている。幸は妹たちの世話を焼くことで、“親に捨てられた”という自分自身の心の傷を懸命に塞いでいる。次女の佳乃(長澤まさみ)と三女の千佳(夏帆)はそんな親代わりの幸に甘え、子どもの役を演じ続けている。傍から見ると仲のよい姉妹に映るが、彼女たちは親子の役割を互いに演じることで“家族”というシステムを循環させてきた。いつしかそれが当たり前となり、もはや彼女たちには演じているという意識もない。

 家族を演じることでトラウマを克服してきた三姉妹に、新しい家族が増えることになり、久々にさざ波が起きる。中学生のすず(広瀬すず)は15年前に家を出た父親と不倫相手の間に産まれた異母姉妹だ。山形の温泉郷で亡くなった父親の葬儀に参列した三姉妹は、そこで初めてすずに会う。すずは母親も早くに亡くしており、天涯孤独の身となった彼女のことを幸たちは放っておけない。15年前の自分たちを見ているようだった。葬儀中ずっと気丈に振る舞っていたすずに対し、別れ際に幸は「鎌倉に来ない? 一緒に暮らそう」と声を掛ける。劇団「三姉妹」が劇団「四姉妹」として新しい物語を奏で始めることになる。綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆という映画やテレビドラマでの人気と実績を兼ねそろえた女優たちの中に、是枝監督がオーディションで選んだ新人・広瀬すずが溶け込んでいく様子をカメラが追う。ドキュメンタリー出身の是枝監督ならではの手法だろう。また、原作のイメージそのままの古民家が四姉妹を受け入れる舞台として、大きな役割を果たしている。

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