石井岳龍と染谷将太のインディーズ魂が大爆裂!! 鼓膜と脳天を直撃する轟音上映『ソレダケ that’s it』
#映画 #パンドラ映画館
染谷将太はいつも眠そうな顔をしている。映画界で引っ張りだこの若手俳優なのに、退屈な日常に辟易したような表情でスクリーンの中に佇んでいる。ハリウッドのスター俳優でありながら、『狩人の夜』(55)や『恐怖の岬』(62)などのカルト作で奇妙な役を度々演じたロバート・ミッチャムの愛称が“スリーピング・アイ”だったことを思い出させる。そんな眠たげな染谷将太が、石井岳龍監督の『ソレダケ that’s it』では覚醒を迫られることに。かつて石井聰亙と呼ばれ、『狂い咲きサンダーロード』(80)『爆裂都市 BURST CITY』(82)『ELECTRIC DRAGON 80000V』(01)といったパンクでアナーキーな映画を生み出してきた石井岳龍の現場で、これまで見せたことのないハイボルテージな男に変貌を遂げた。
石井岳龍と染谷将太は『生きているものはいないのか』(12)ですでにタッグを経験済みだが、『生きているものはいないのか』は人類滅亡をシュールかつブラックに描いたオフビートなコメディだったのに対し、『ソレダケ』は“生きる”ことへの猛烈な渇望がドストレートに描かれる。泳ぎ続けないと死んでしまうサメのように、染谷将太は劇中ずっと走り続けるか戦い続ける。アドレナリンを噴出しっぱなしで、眠そうにしている余裕がまるでない。石井岳龍、染谷将太という邦画界の逸材同士に強烈な化学反応をもたらしたのが、全編に流れるbloodthirsty butchersの爆音サウンドだ。2013年5月に急逝した吉村秀樹率いるbloodthirsty butchers(以下ブッチャーズ)はメジャーでのヒット曲こそなかったが、四半世紀にわたってライブシーンを熱くしてきた伝説のハードコアバンド。ブッチャーズの放つ攻撃的で重厚なサウンドが、石井岳龍を、染谷将太を、そして観客をも覚醒させる。
物語はモノトーンな色彩で始まる。現代社会なのか、ディストピア化が進んだパラレルワールドなのかよく分からない世界で、大黒(染谷将太)は路地をがむしゃらに走る。裏社会の調達屋・恵比寿(渋川清彦)がロッカーに隠していたハードディスクを盗み出し、鬼の形相の恵比寿から追われているからだ。ディスクの中には家出人やホームレス、破産者たちの戸籍情報がたっぷり入っている。裏社会では戸籍などの個人情報が売買され、戸籍を失った人間はユーレイとして生きながらえなくてはいけない。大黒もその昔、実の父親から虐待されまくった挙げ句に戸籍を売り飛ばされた。戸籍というIDを失った大黒は、定職に就くことも死ぬことすらもできない。裏社会で野良犬のようにして生きてきた。
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