“ハリウッド的”ハッピーエンドへのアンチテーゼか 『第9地区』監督の最新作『チャッピー』
#映画
今週取り上げる最新映画は、クオリティの高い視覚効果を駆使して近未来を描くハリウッド製のSF超大作2本。愛着を覚えてしまうほどリアルな存在感が魅力のAIロボットか、圧倒的な迫力で動く巨大迷路か。映画館の大スクリーンで最先端の映像表現とスリリングなストーリーを堪能したい2作品だ。
『チャッピー』(5月23日公開)は、『第9地区』(2009年)、『エリジウム』(13年)のニール・ブロムカンプ監督がオリジナル脚本で臨むSFアクションドラマ。南アフリカのヨハネスブルグで2016年、テトラバール社が開発した警察ロボットが配備され、治安維持に貢献していた。同社の天才科学者ディオン(デーブ・パテル)は、独自に開発した人工知能(AI)を廃棄予定のロボットにインストールしようとする。だがロボットを車で運び出した直後、2人組のストリートギャングに誘拐されてしまう。AIを搭載し起動したロボットは、2人からチャッピーと名付けられ、ギャングとしての生き方を学び、成長していく。やがて、ディオンの同僚でAIを危険視するヴィンセント(ヒュー・ジャックマン)からチャッピーのことを知られ、チャッピーとディオンは追い詰められていく。
南ア出身のブロムカンプ監督が、『第9地区』と同様にアパルトヘイト政策の記憶が残るヨハネスブルグを舞台に設定し、「人類とAIロボットの共存は可能か?」という問いを投げかける。警察ロボットや遠隔操作の大型ロボットがまさに実在するかのような、リアルな視覚効果とアクション演出が抜群だ。『第9地区』で主演したシャルト・コプリーが、モーションキャプチャーでチャッピーを好演。日本のアニメや漫画に影響を受けたことを公言する監督が自ら手がけたチャッピーのデザインが、『機動警察パトレイバー』のイングラムにそっくりなのも話題だ。ブロムカンプ作品に共通する、ハリウッド的ハッピーエンドへのアンチテーゼとも言える衝撃のラストを、ぜひ劇場で確かめていただきたい。
『メイズ・ランナー』(5月22日公開)は、謎の巨大迷路に閉じ込められた若者たちのサバイバルを描く3部作の第1章。記憶を失った少年トーマスがリフトで運ばれてきたのは、高い壁で囲まれた「グレード」と呼ばれる区域。そこには月に1度、同じような若者が生活物資と共に送り込まれ、共同生活を送っていた。グレードの周囲は巨大な迷路になっていて、その構造は夜のうちに変化してしまう。トーマスと若者たちは、迷路の秘密を解いて脱出しようと試みる。
原作は、全米で160万部を売り上げたジェイムズ・ダシュナーのヤングアダルト小説。先行するYA小説原作の『ハンガー・ゲーム』(12年~)、『ダイバージェント』(14年~)両シリーズと同様、近未来のディストピアで奮闘する若者たちを描くが、本作は世界そのものが謎に包まれている点が大きな特徴。観客も登場人物たちに同化し、迷路とその外側の秘密を少しずつ解き明かしていくという趣向だ。孤島などでサバイバルする出演者たちの悪戦苦闘ぶりを楽しむリアリティー番組を思わせ、傑作ホラーの『キューブ』(98年)、『キャビン』(12年)のような仕掛けも。若い頃のケビン・ベーコンに似た主演ディラン・オブライエンをはじめ、日本では知名度の低い主要キャストだが、今後彼らの人気が上昇したら第2部、第3部と盛り上がりそうだ。
(文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉)
『チャッピー』作品情報
http://eiga.com/movie/81798/
『メイズ・ランナー』作品情報
http://eiga.com/movie/80980/
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事