「恋愛は変態への第一歩」――“静かな変人”堺雅人『Dr.倫太郎』に流れるタモリイズム
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このドラマではほぼ毎回、「僕の大好きなコメディアンはこう言っています」と言って、そのコメディアンの名言が紹介される。
「嫉妬はいつも正義の服を着てやってくる」
「あまり聞いてはダメだ。聞くと人はしゃべらない」
「人生とは後悔するために過ごすものである」
これらはいずれも、堺の事務所の先輩でもあるタモリが言った(とされる)言葉だ。ちなみに、倫太郎が飼っている犬の名前は「ヤスケ」。これも、タモリが飼っていた犬の「横山弥助」から取ったものだろう。頑張りすぎてしまう人が陥りがちな精神疾患に対して、「やる気のある者は去れ」などに代表されるタモリの頑張りすぎないスタンスは、確かに有効かもしれない。
ドラマはゲストである患者の治療が軸に進むが、もう一つの軸となっているのが、新橋の売れっ子芸者・夢乃(蒼井優)だ。彼女は、ギャンブル好きのいわゆる「毒親」である母親(高畑淳子)につきまとわれ、金を無心され続けている。その母親からのなんらかの虐待が原因なのか、彼女は本名の「明良(あきら)」と芸者の「夢乃」の解離性同一障害、いわゆる多重人格に陥っている。明良は倫太郎に治療を望んでいるが、夢乃は拒否している。
そんな彼女に、倫太郎は惹かれていく。いや、恋愛感情ではないと倫太郎は強調する。「共感」しているのだと。彼に言わせると、相手がどう感じているかは二の次で、自分の感情が先行しているのが「恋愛」。顔と顔を合わせ、心を通い合わせるのが「共感」だという。「僕は彼女に心から共感し、診察したいんです。恋なんかしたら彼女を救えないじゃないですか」と。
第2話で引用されたタモリの名言は、「恋愛は変態への第一歩」だった。くしくも先日(5月17日)の『ヨルタモリ』(フジテレビ系)で、再びタモリ(扮する近藤さん)は「俺は、変態の第一歩は恋愛だと思ってますから」と語った。
「恋愛というのは、生殖行為に精神性が入ってくるわけでしょ。精神が入ってくると、変態の第一歩」
また別の回では、愛情は「執着」だとも語っている。
「キレイなものじゃないんだよ。いい時だけがキレイなの。悪くなったら、ものすごい汚いものになる」
これは「恋なんかしたら彼女を救えない」という倫太郎の言葉に重なる。『Dr.倫太郎』はいわば、タモリイズムそのものをドラマ化しようとした作品なのではないだろうか。その主人公を演じるのに、静かな変態である堺雅人ほどふさわしい俳優はいないのだ。
(文=てれびのスキマ <http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/>)
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