障害者コミュニティは壮絶なヒエラルキー社会!? 字幕、吹替えなしの肉弾ドラマ『ザ・トライブ』
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手話を学んだ人なら、本作をまるっと理解できるかというと、そうでもない。本作のキャストが使っているのはウクライナ手話なので、日本人が彼らの手話内容を完全に理解することは難しい。手話をボディランゲージとして受け止め、登場人物たちの迫真の表情から真意を読み取るしかない。戸惑い、苛立ちを覚えながらも物語を懸命に追いかけていくうちに、少しずつ状況が読めてくる。売春の元締めをしているオッサンは聾唖学校の教員であること。もしかしたら、この学校のOBなのかもしれない。アナが中絶手術を受けることになる闇の堕胎屋も言葉を話さない。彼女も聾唖者らしい。そしてアナと同室の女の子が売春に明け暮れているのは、ウクライナという旧共産圏の国を出て、もっと自由な国・イタリアに行くための資金集めであることが分かってくる。裏ビジネスに手を染めなくては生きていけない障害者たちのリアルな現状を本作は伝えるだけではない。彼らは法は犯しているが、健常者からの助けを借りずに自分の力で生きようとしている。その毅然とした表情に心を動かされる。
『ザ・トライブ』はサイレント映画時代に先祖返りしたかのようなエネルギッシュさに満ち、また言語が発明されるよりも昔、バベルの塔が崩壊する以前の神話時代の出来事に立ち会っているかのような厳粛さも感じられる。チェルノブイリ原発事故やベルリンの壁崩壊後に生まれたセルゲイやアナたちは、それこそ本能にとても忠実に生きる新しい“種族”なのかもしれない。そして荒々しい血に塗られた物語のクライマックスには、“サイレント・オブ・バイオレンス”とでも称すべき驚愕の結末が待ち受けている。言葉の綾ではなく、本作を最後まで見届けた瞬間、まさに言葉を失うことになる。
(文=長野辰次)
『ザ・トライブ』
脚本・監督/ミロスラヴ・スラボシュピツキー 出演/グレゴリー・フェセンコ、ヤナ・ノヴィコヴァ、ロザ・バビィ 字幕なし・手話のみ 配給/彩プロ、ミモザフィルム R18+ 4月18日より渋谷ユーロスペース、新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー中
(c)GARMATA FILM PRODUCTION LLC, 2014 (c) UKRAINIAN STATE FILM AGENCY, 2014
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