人のにおいが消えた集落、荒廃したDASH村、にぎわう歓楽街……写真家が語る、百人百様「福島」の風景
#インタビュー #東日本大震災 #原発事故
――また、本書には、同じく避難しなかった津島の住民として、勇夫さんの姿が刻まれています。彼の姿を見ていると、「故郷」に対する強い思いを感じずにはいられません。
八木澤 もう亡くなられてしまいましたが、利仙さんと同じく津島にとどまり続けた勇夫さんの姿はとても印象に残っています。仕事もしておらず、普通に考えたら避難するはずなんですが、彼にとって血肉となっている故郷の姿、土地に対する思いがあったんでしょうね……。勇夫さんの家に行くと、お酒を飲みながら家の前の庭に腰掛けてジーッと山を見ていました。何を話すわけでもなく、誰を待っているわけでもなく。ただ「いい風が吹いてくっど」ってポツリと言うだけ。山を見ながら、遠い昔を思い出していたのかもしれません。あの光景は忘れられませんね。
――それも、勇夫さんの日常だった。
八木澤 事故前も、そうやって山を眺めていたのかもしれませんね。津島の人々にとっては、風を感じ、山菜を山に採りにいくというのがささやかな日常だったんです。利仙さんの奥さんの恵子さんは「小さな世界だったけど、津島での生活は幸せだった」と語っていました。
――ある意味、原発事故がもたらした被害の本質が浮かび上がってくる言葉ですね。
八木澤 「お金(賠償金)が出ているからいい」という人も中にはいるかもしれませんが、彼らにとって津島という場所は、かけがえのない土地だったんです。
■人のにおいは、簡単に消えてしまう
――津島には、『ザ!鉄腕!DASH!!』(日本テレビ系)の人気企画の舞台だった「DASH村」もありました。本書に掲載されている変わり果てたDASH村の姿は、福島の被害の実態をストレートに伝えてくれます。
八木澤 事故当初からDASH村があるのは知っていたんですが、初めて足を運んだのは昨年でした。「浪江町津島」と聞いても事故前の姿を知る人はわずかですが、DASH村の風景なら覚えている人も多いはず。あののどかな風景が、むちゃくちゃに破壊されてしまったというのが、今回の原発事故なんです。DASH村という空間は、エンタテインメントのための場所であり、そこで行われていたことは、農家からすれば、ままごとのような農作業体験だった。しかし、それでも血肉が通った土地であり、そこが草ぼうぼうになって納屋も壊れています。震災を伝えるに当たって、その現状を表に出す意義があると思いました。
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