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オスカー獲り損ねたマイケル・キートンの名演が光る!『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』

main_02_BM_04337_04342_R2.jpg(C)2014 Twentieth Century Fox

 今週取り上げる最新映画は、ブロードウェイ舞台で再起を図る落ち目の映画俳優の苦闘を虚実織り交ぜた映像で描くアカデミー賞4部門受賞作と、中学生が前代未聞の学校内裁判を敢行する話題作の後編。どちらも興味深いテーマに、見応え十分の演技、緻密な演出が相まって、別格の観賞体験をもたらしてくれる充実作だ。

 『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(公開中)は、『バベル』のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督がマイケル・キートン主演で描くシニカルなコメディドラマ。かつてスーパーヒーロー映画『バードマン』の主役で人気を博しながらも、いまやすっかり落ち目の俳優リーガン(キートン)は、自ら資金を投じたブロードウェイの舞台で再起を図る。レイモンド・カーバーの短編小説『愛について語るときに我々の語ること』を脚色し演出も主演も兼ねて、稽古も大詰めというとき、共演者が大ケガをして降板。代役に迎えたマイク(エドワード・ノートン)の卓越した才能におびやかされ、リーガンは精神的に追い詰められていく。

 フィクションではあれど、演劇界と映画界の実情を皮肉たっぷりに描く内幕物。『バットマン』(1989年)で主演し、近年ぱっとしなかったキートンが本作の主役を演じることが、虚構と現実の境界をあいまいにする最初の「装置」として機能している。凝った編集により全編が長回しに見えるリーガンの主観的映像で、現実世界に妄想がシームレスに描き込まれ、主人公の内面の混迷と高揚を観客にリアルタイムで体験させる仕掛けだ。ザック・ガリフィアナキス、エマ・ストーンらを交えたアンサンブルも見応えあり。今年の第87回アカデミー賞では作品賞、監督賞を含む4部門を受賞。映画ファンなら必見の傑作で、今後の映像作品に大きな影響を与えるであろう刺激と創造性に満ちた1本だ。

 『ソロモンの偽証 後篇・裁判』(4月11日公開)は、宮部みゆきの長編ミステリー『ソロモンの偽証』を、『八日目の蝉』の成島出監督が映画化した2部作の後編。男子生徒・卓也の死から続く事件と騒動に揺れる城東第三中学校で、生徒たちの手で真相を解明することを目指す学校内裁判が始まる。校内裁判を提案した涼子は検事として、告発状で卓也殺害の嫌疑をかけられた被告・俊次の有罪を立証しようとする。一方、卓也の友人という他校生・和彦は俊次の弁護人となり、涼子と対峙。参考人たちの証言から、それまで警察やマスコミの調べでは分からなかった真相が徐々に浮かび上がる。

 『前篇・事件』では、校内裁判がスタートする前に「おあずけ」状態で終わってしまったが、ようやく“メインイベント”が開始。いざふたを開けてみると、期待を超えるスリリングな応酬と衝撃の展開に引き込まれる。役名と同じ芸名で女優デビューを飾った藤野涼子が、前編に続き新人とは思えない安定した演技で論戦を主導。ハマリすぎなほどぴったりな「涼子」役のイメージを、今後の出演作で払拭し成長できるかも含め、将来の活躍が楽しみな逸材だ。生徒たちの裁判が現実の法廷を模しているように、学校内のいじめもまた大人社会の人間関係を写す鏡であることを、あらためて突きつける意図も見逃せない。
(文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉)

『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』作品情報
<http://eiga.com/movie/81227/>

『ソロモンの偽証 後篇・裁判』作品情報
<http://eiga.com/movie/79922/>

最終更新:2015/04/10 23:00
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