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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム >  パンドラ映画館  > 麻薬王叙事詩『皆殺しのバラッド』
深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.317

麻薬王が賛美されるメキシコ無法地帯の叙事詩! 『皆殺しのバラッド』に見る麻薬カルチャーの現実

minagoroshino02.jpg麻薬カルテルから押収した武器弾薬。豊富な資金でメキシコ軍の特殊部隊までヘッドハンティングするため、警察はうかつに手を出せない。

 もうひとりの主人公となるのは、米国LA在住の人気歌手エドガー・キンテロ。“ナルコ・コリード”と呼ばれるメキシコ歌謡のシンガーソングライターだ。エドガーはギャングたちから武勇伝を聞き、それを歌にする。怖いもの知らずのギャングが自動小銃とバズーカ砲を持って警察と戦う勇壮な歌詞と哀愁を帯びたメロディとのギャップが奇妙な味わいのナルコ・コリードが出来上がる。いい曲ができ、ギャングがその曲を気にいると高額のチップがもらえることもある。メキシコ系米国人であるエドガーはLAで暮らし、実際にメキシコには足を踏み入れたことはない。すべて伝聞で作った曲ばかりだが、それでも彼の所属するバンドは人気で、ライブハウスではヒップホップスターのような熱狂ぶりで迎え入れられる。

 麻薬王たちを英雄視したナルコ・コリードはメキシコでは放送禁止扱いとなっているものの、米国ではウォールマートでCDが販売されているほど。ナルコ・カルチャー(麻薬文化:本作の原題)としてメキシコとメキシコ移民の多い米国ではすっかり定着している。もっといい曲を作りたい。エドガーは国境を越えて、メキシコで曲づくりすることを考えるようになる。自分の皮膚感覚で曲を書けば、もっとリアルなものができるに違いない。美人な奥さんは大反対だ。特定の麻薬王を賞讃する歌を歌えば、敵対する組織の反感を買ってしまう。夫を危険なメキシコに行かせて、今の裕福な生活を手放すわけにはいかない。

 自分が子どもの頃のような美しい街を取り戻したいという切ない想いを胸に抱く警官リチ・ソトと、ナルコ・コリードの人気歌手として麻薬戦争をリアルに体感してみたいと思うエドガー。国境を挟んだあまりにも対称的な2人の男の仕事ぶりをカメラは収める。絶望的な現実の中で見る淡い夢と過剰なフィクションの世界で求められるひと筋のリアルさ。決して相容れることのない2つの願いが、スクリーンの中で対峙する。

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