いじめ、暴行、闘病からの逆転人生『がむしゃら』女子レスラー安川惡斗は逆境でこそ存在感を増す
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2月22日、女子プロレスを久しぶりに観戦しようと思い立ち、後楽園ホールに向かった。ビジュアル系レスラーが多いとされるスターダムの大会だ。大会前や休憩中には、その日のメーンイベントに出場する安川惡斗の主演ドキュメンタリー『がむしゃら』の予告編が大型ビジョンに何度も流れていた。チャンピオンベルトを賭けたメーンイベントで挑戦者の安川が勝てば、彼女がスポーツ紙やプロレス誌に露出する機会が増えて、『がむしゃら』のいいPRになるな。そんなことを思いながら観戦していた。試合前からベルト保持者である世IV虎と調印書にサインするしないで揉める。2人が以前から犬猿の仲であることを強調する、プロレス用語の“アングル”だろうと軽く考えていた。ところが試合が始まっても2人は噛み合ない。両者が感情を剥き出しにして顔面攻撃を交わす。体格で勝る世IV虎が圧倒し、馬乗り状態のまま安川にパンチを浴びせ続ける。でも、ここまではプロレスによくあるパターン。安川はリング下にエスケープするが、この後ベルト戦にふさわしい熱い攻防を見せてくれるに違いない。そう考えていた矢先に安川サイドから青いタオルがリングに投げ込まれ、釈然としないまま試合は終わった。スタンド席からは分からなかったが、安川は顔面骨折を負ったことを後からネットニュースで知った。ガチな闘争心とショーマンシップとのせめぎ合いがプロレスの面白さだが、ガチさが一方的にその境界線を突き破ってきた怖さを、ネット画像を見ながらじわじわと感じた。
病院に運ばれた安川惡斗と映画『がむしゃら』は、本人や関係者の思惑とは全く違った形でその存在を広く知られることになってしまった。だが、安川はこれまでも何度も逆境に陥り、それを糧にして伸びてきたレスラーだ。大会の数日前、安川にはその『がむしゃら』の試写室で会っていた。『がむしゃら』から大変な熱量を感じたことを本人に伝えると、彼女は「うれしい!」という表情を全身で表現してみせた。体格がいいわけでもない安川は全然プロレスラーっぽく見えなかったけれど、そんなギャップが彼女の独特な魅力になっているんだろうなとも感じた。
『がむしゃら』には3人の安川が登場する。ひとりはリング上で悪役レスラーとして暴れ回る安川惡斗。もうひとりは、本名の安川祐香。青森県三沢市で生まれ育った彼女は、中学時代からイジメに遭い、自宅に引きこもり、自傷行為を繰り返した。そして、正反対のキャラクターである安川祐香と安川惡斗との橋渡し役となったのが女優・安川結花。暗い青春を過ごしていた安川だが、高校時代に演劇の世界に触れ、現実とは異なる世界があること、自分ではない別人を演じることの面白さを知った。日本映画学校俳優コースに進んだ彼女は、安川結花という芸名で、舞台や映画に出演するようになる。舞台『レスラーガール』でグラドル兼プロレスラーとして人気を集めていた愛川ゆず季と共演したことがきっかけで、女子プロレスの華やかな世界に憧れ、愛川の所属するスターダムに入門。自分から進んで悪役レスラーになることを志願し、2012年に安川惡斗としてプロレスデビューを果たした。中学・高校でイジメられ続けた負のエネルギーを一気に反転させたかのような弾けっぷりで、リング上の安川惡斗は素顔の安川祐香とも女優の安川結花とも異なる別人としての輝きを放つようになる。
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