「音楽的なレベルは10段階で5」孤高のラッパー5lackに聞く、日本語ラップが“アングラ”から抜け出せないワケ
#インタビュー
――最近では実の兄であるPUNPEEさんが、『水曜日のダウンタウン』(TBS系)の音楽を担当したり、『レッドブル』のCMに楽曲が使われるなど、メジャーな仕事をしていますが、そこでスイッチが入った部分もありますか?
5lack 兄貴に限らず、周りの仲間がいろんなことやりだしていますよね。俺はずっと90年代っぽいこと、ストイックでアングラ風な感じがカッコいいって思ってやっていたんですけど、最近はなんでもありかなって。ちゃぶ台返しじゃないけど、俺もこれからいろいろやって、みんなの仕事を奪っちゃおうかなと(笑)。でも、兄貴とはまったく役割が違うと思っています。兄貴は入り口を作る人。でも、俺はもっと深いところで音楽を突き詰めたいんです。常に目指しているのは世界基準。海外の基準で新しいと思われるものを作りたい。でも、それが日本でヒットするかはわからない。だから、今の若い子たちが、大人になった時に、「5lackって、いま聴いたらヤバくない?」ってなればいいと思います。昔からシーンのど真ん中で注目を浴びるより、端っこのほうで黒レンジャーみたいな存在になりたかったんで、今けっこう理想的なポジションです。
■本当にジャンルをよくしたいなら、みんなが正しい評価をしなきゃいけない
――そういう意味で、現在の日本語ラップシーンについて思うことはありますか?
5lack 音楽とかまじめな話をするとしたら、正直興味ないです。日本語ラップを楽しむっていう意味では、よくなるといいなと応援しています。でも、ジャンルのレベルとしては、最高が10だとしたら、5にも達していない。
――知名度的に? それとも音楽的ですか?
5lack 音楽的ですね。知名度的には上がってきているんじゃないですか。でも、歴史とか文化とか、そういうのはないし、今の流行は自由の尊重ですよね。その行きつく先は見えるし、その時に今と同じスタミナがあるかな? とは客観的に見ています。本質がないままはやっちゃうと危険というか。周りのやつらは、金になる限り、そいつのことを使い尽くすだろうし、使えなくなったら終わりですよね。
――“さんぴんcamp”前はコミカルなラップばかりだったのが、さんぴん以降は不良性やメッセージ性がある日本語ラップが出てきて、それがスタンダードになりました。そして、2009年くらいから5lackさんのようにラップの音楽性を重視するラッパーが出てきた。でも、いまだに“巧さ”を追求するラップがムーヴメントにはなってないように感じます。
5lack 俺みたいなのは、都合悪いんでしょうね。合コンに、自分よりルックスの悪いやつを連れていく、みたいなノリっていうか。
――(笑)。一緒にされたくないっていう気持ちもありますか?
5lack いや、一緒にしてもらってもいいです。曲を聴き比べてもらったら、損するのは俺らではないから。ボブ・ディランとかニール・ヤングとか憧れるんですけど、できるやつが(世の音楽のスタンダードに)出てくると都合悪いやつらって、いっぱいいたんじゃないかなって。アメリカ生活が長かったKOJOE君とかすごいラップ巧くて、初めて聴いた時「日本語ラップの人たちはやっぱり……」と思った。でも、「KOJOE、俺よりヤバい」って言えるラッパーっていないじゃないですか? 本当にジャンルをよくしたいなら、みんなが正しい評価をしなきゃいけない。でも、いいものを隠すんですよ。本当によくするんじゃなくて、自分にとっていい状態にする。それが、シーンがよくならない一番の理由な気がする。
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