ロングインタビュー「“薬物依存症の田代まさし”を、やっと受け入れることができた」
#インタビュー #田代まさし
――これから田代さんがやりたいことは何ですか? やっぱり芸能界復帰?
田代 今は自分の回復と人の回復のために時間を使いたいし、まだプログラムも受けている段階だからね。薬物の依存症に特効薬はなくて「はい、これで回復しました」とはいかないんだ。うちの近藤代表も34年以上やめているのに「まだ明日はわからない」って言う。あのときの快感を脳が覚えてて、モノ見ちゃったらわからないってまだ言うから。
――「今日一日止めた」ということが大事だと。
田代 「今日一日」が長いなら「今この瞬間」でもいい。それを積み重ねていくしかないから。俺は今与えられたところで咲きたい。そのためにはこの本や、こういうインタビューが苦しんでいる人たちの助けになればいいと思います。
――今は「ダルクの田代まさし」として働いているわけじゃないですか。もし田代さんがまた転んでしまったら……。
田代 ダルクに迷惑かけるだろうね(笑)。近藤代表も「ダルクとしてこんなに田代くんの面倒みてて、もし田代くんがスベっちゃったら(※再度薬物に手を出すこと)どうするの?」ってよく聞かれるんだって。でも「だからいいんだよ。クスリがそれだけ怖いってことがわかるじゃん!」だって。
――田代さんが今、幸せだと思うことは何ですか?
田代 人は誰でも幸せを求めて生きていると思うけど、かつての俺はクスリに幸せを求めてました。だけど今はクスリがなくても幸せだと言える。広島のダルクに講演に行ったときに、スタッフさんがお好み焼き屋さんに連れていってくれたんだけど、そこの大将が「田代さんですよね? サインもらってもいいですか?」って。事件を起こして俺のサインを外した店はたくさんあっただろうに、この人は今の俺にサインを求めてくれるんだって思った。サインを求められることがこんなに嬉しいことだったなんて、今まで知らなかったですよ。それですごく丁寧に書いて、似顔絵やコメントも入れて渡したら「ありがとうございます! 飾らせていただきます!」って。油がつかないように丁寧にラップでくるんでね、それ見て感激してたら、色紙の裏側を固定するのにラップを火で炙った!
――炙り!!
田代 止めてよ!!(笑) でも、売れて勝ち続けているときには絶対にわからなかった感情だよなって思った。こうやって失敗してみて、初めて人の優しさとか思いやりとかすごくわかるから。
――以前は「復帰に向かって進んでる」ことが幸せでしたか?
田代 うん、たぶんそれは誤解してたんだよね。それが自分にとっての幸せだし、応援してくれる人もきっとそうだろうって。でもね、「人のために止めたい」っていうのが回復に最も邪魔なの。今回は「自分のために止めよう」って思った。クスリ使うのも何かのせいにしていたし、止めるのも「応援してくれる人のため」とか自分以外の誰かに責任転嫁してたんだと思う。
――今ドラッグを取り巻く環境について、田代さんはどう思われますか?
田代 俺も最初はファッション感覚で、「黒人ミュージシャンはみんなやってる」っていう……。そもそも俺、シンナー吸ってた不良だったし。だけど今出回ってる「危険ドラッグ」なんかは、成分がなんだかわからないんだから。精神も肉体も完全に壊れちゃいますよ。ダルクでも勉強してることだけど、いかに「最初の一回」に手を出さないか。生まれ育った環境もあるだろうし、周りにいる仲間にもよるし、そういう場所にいたって、やらない人ももちろんいるけど、誰しもクスリに遭遇する危険があるっていうことは念頭に置いたほうがいいと思う。
――過去に戻れるとしたら、やっぱりそのことを伝えたいですか?
田代 最初に使う瞬間に戻って「ダメだよそれ! 大変なことになるぞ!」って言うかなぁ。でもさ、ここに飾ってあるロイ神父、近藤代表はこの人に助けられたんだけど、ロイ神父が言うには「偶然はない」んだって。クスリを使った過去も、その怖さと向き合って立ち直ろうとしている現在も、全部が必然。捕まってダルクに出会ったから、今こうして話もできるわけで、もしうまいこと逃げられて、ずっとクスリを使い続けていたら、そのまま死んでいたかもしれない。
――考えてみたら、こんなかたちでクスリの怖さを伝える芸能人って、今までいなかったんじゃないですか?
田代 そりゃそうでしょう。芸能人だったら、そのイメージからなるべく早く離れたいもの。
――じゃあ第一人者ですね。
田代 パイオニアだ(笑)。
――ネットでは「田代まさしのリハビリ本はピンクの電話のダイエット本みたいなもん」などと揶揄されていますが。
田代 ……誰がリバウンドの女王だよ!!
(取材・文=西澤千央/写真=尾藤能暢)
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事