アイドルは「さよなら」の代わりに映画を残した 銀幕越しの温もり『世界の終わりのいずこねこ』
#映画 #パンドラ映画館
高萩市でロケが行なわれた本作には、廃工場シーンが度々登場する。廃工場の中に佇む制服姿のイツ子は、まるでパルテノン神殿に迷い込んだ仔猫のように愛らしい。アイドルには廃墟がよく似合う。アイドルが放つキャピキャピさと歴史を終えた廃墟とはあまりにも対称的すぎて、逆に相性がいいのだろう。アイドルもまた、自分のアイドルとしての寿命が限られていることを悟っているのか、初々しいはかなさがそこには漂う。長い歴史と限られた輝き、大きな存在と小さな温もり……。暗い宇宙空間にぽつんと浮かんだ地球という天体を、俯瞰して見つめているような気分になってくる。
「いずこねこ」を約3年間にわたってプロデュースしてきたサクライケンタが原案、教師役で出演もしている漫画家・西島大介と神聖かまってちゃんのライブ動画で知られる竹内道宏監督が共同で脚本を手掛けた本作は、アーサー・C・クラークのSF小説『幼年期の終わり』をベースにしていると思われる。『幼年期の終わり』では地球人類は高レベルの異星人と交流することで、戦争も人種差別も宗教紛争もない、より高い次元へと進化を遂げることになる。そして、本作の主人公・イツ子を演じた「いずこねこ」こと茉里は、2014年8月でソロユニットとしての活動を終了し、やはり同年7月に解散したBiSのカミヤサキとのデュオ「プラニメ」として新スタートを切った。すでに消滅してしまったアイドル「いずこねこ」の旅立ちを、観客/ファンは時間差で見送る形となっている。
映画のクライマックスは、イツ子のオンステージだ。イツ子のネット上でのアイドル活動が木星人であるレイニー&アイロニー(緑川百々子、永井亜子)の目に留まり、イツ子は木星へと移住することになる。木星人の世界は進化しすぎてしまい、イツ子の発する初期衝動エネルギーを木星人たちは欲していたのだ。親友のスウ子(蒼波純)、お母さん・お父さん、ミイケ先生ともお別れすることになる。さよならの代わりに、イツ子は最後に「いずこねこ」の代表曲「rainy irony」を歌う。
辛いから前を向かない 夢も追いかけないの 願えば叶うなんてこともないの 行きどまりよ♪
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