『徹子の部屋』40年の足跡に見る、“超人”黒柳徹子の絶対的な人間愛
#本 #黒柳徹子 #徹子の部屋
徹子の、常人には思いもよらないような突拍子もない行動、言動にひるまない、動じないスタッフたちも、おそらく超人徹子に日々鍛え上げられているのだろう。『徹子の部屋』にはおなじみ「編集しない」という掟のほかに、「ピンマイクをつけない」というものもある。これは「ゲストの衣裳をより綺麗に見せたい」という徹子のこだわりであるが、ドラマの撮影などに使われるガンマイクは周りの音も拾いやすいという欠点があるため「カメラを動かすときも音を立てないよう、そーっと動かしていますよ」「技術系のスタッフはこの番組特有の決まり事が多いから、スタッフ間のコミュニケーションを取ることが重要」(技術スタッフ座談会より)なのだとか。そのほかにも「(食事時の)20代、30代男子に負けない量とスピードに店員も目を丸くしていました」「実は、私は見てしまったんです。黒柳さんが、足の爪を切りながら打ち合わせのメモをしている姿を」(番組スタッフコメントより)などなど、もはやここまでくると『徹子の部屋』が『魁!!男塾』にも見えてくる。わしが徹子塾塾長、黒柳徹子であるッッ!!!
しかし、そんな黒柳徹子も最初から超人徹子だったわけではない。このムック本には栄えある1976年初回放送(ゲスト森繁久彌)がプレイバックされているが、まだこの頃は昭和のギャグとお色気ネタでグイグイくる森繁を恥じらいつつ受け止める「引き」の徹子だ。それが2013年11月の放送回(ゲスト竹野内豊)のプレイバックを見ると、「ドラマ以外の番組にはほとんど出演することがない」という竹野内を独自のトーク術で翻弄する別人のような徹子がいる。竹野内が、自分からあのバレリーナに扮するCM(東京ガス)の話を振りながら、バレエつながりで中学時代の部活動(器械体操)の話をしだすと、徹子は「話は少し違うんですけど」と愛犬の話題に突然チェンジ。竹野内が尊敬する緒形拳が『徹子の部屋』に登場した際のVTRを何度も紹介し、感極まった竹野内が涙を流すと「あら、あなた涙がいっぱい出てる」「普段はお泣きにならないそうですけれど、ついつい涙を見せてしまった」と確認した直後に「話は違うんですが」と、またもやまったく違う話題にチェンジ。このムックを読むと、ウブな徹子が超人徹子に変貌していく過程がよく分かる。徹子一日にして成らず、である。
「40年間も番組を続けてこられたのは、責任感ではなく好奇心があったから」。黒柳徹子は好奇心に対して、一貫して正直で平等だ。スタッフはみな黒柳を「少女がそのまま大人になったような人」と評している。湧き上がる好奇心に正直だが、そこに下衆さはない。そして正直だからこそ、厳しい。徹子伝説の一つに「子どもが遊んでいたボールが地雷原に入ってしまったとき、地元民すら恐れるその地雷原になんの躊躇もなく入っていきボールを取ってきた」というものがあるが、『徹子の部屋』が40年もの間人々に愛された理由もそんなところにあるのだと思う。黒柳の絶対的な人間愛が、トークという地雷原に躊躇なく踏み込む依拠となる。この聖域なき『徹子の部屋』が末永く続いてくれるよう、願ってやまない。
(文=西澤千央)
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