「『俺を育てろ』と手紙を書いた──」“自己啓発書の雄”水野敬也と映画脚本の幸せな関係
#映画 #インタビュー
“マニュアルの鬼”が出会った「生」の脚本術
──水野さんといえば、あらゆるマニュアル本を読破している“マニュアルの鬼”としても知られています。当然、シナリオ術のマニュアル本もお読みになったと思いますが。
水野 いちおう、シド・フィールドのやつとか、有名なものは、ほぼ目を通しましたね。ただ、僕自身がマニュアル本を読んでいくと、その落とし穴みたいなものを、すごく感じるんです。だから、その本に沿って作ったということではなかったです。李さんのふとした意見をね、僕、自分の家で「李鳳宇名言集」っていうのを作って、全部メモしているんです。例えば、だいたいどの脚本術も「キャラクターが大事、キャラクターを決めなさい」って書いてあるんですが、李さんは「一度決めたキャラが途中で変わってもいいじゃん」「面白くなるんだったら変えればいいじゃん」って。結局はキャラとスジの摩擦だから、キャラが決まるのは脚本が完成したときなのかなって、そういうことに気づいたんですね。
──シナリオを書いては、李さんに見せる、という繰り返しだったのでしょうか?
水野 そうですね、基本的には李さんがバーッとしゃべって、僕が書いて見せて、と。例えれば、李さんが「ここをジャンプして」とハードルを設定して、僕がイルカのようにぴょーんとジャンプしていくみたいな作業がベースにありました。もちろん、逆に僕のほうから大きく変更すべきなんじゃないかと提案することもありますし、役割はぐちゃぐちゃだったかも。マニュアル本より、生でやり合うことによって吸収することがすごく大きかった。これはホントに皮肉なことだと思うんですけど、李さんはいろんな大学やスクールで何千人と教えてきたと思いますが、間違いなく、最も成長した生徒は僕でしょうね。理解した部分もありますけど、よりブラックボックスが広がった部分もあって、そこは難しいところなんですが……。
映画は「僕のものではない」という感覚
──作品の話に移りたいと思います。『イン・ザ・ヒーロー』といえば、なんといっても圧巻のラストシーン。唐沢さん演じるスーツアクターの本城渉が、極めて危険なスタントに挑むことになるわけですが、「見たこともないようなプリミティブなアクションシーンを撮る」という物語の要請は、作る側にとっても、けっこうなハードルだったように思います。
水野 そうですよね。本城の持っているものをすべて吐き出し、彼の周辺にいる人たち、それぞれのキャラクターの持っている悩みも全部昇華するクライマックスという認識で書いたんですが、そこは監督ですよね。監督とアクション監督の間でも、男の摩擦があったんだろうと思います。出来上がったシーンは、あまりにもすごかったし、もう僕のものではないという感じです。もちろん、めちゃくちゃ悩んで脚本は作っているんですが、逆に申し訳ないくらいでした。
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