「『俺を育てろ』と手紙を書いた──」“自己啓発書の雄”水野敬也と映画脚本の幸せな関係
#映画 #インタビュー
著書『夢をかなえるゾウ』(飛鳥新社)がシリーズ累計280万部を超えるベストセラーになるなど、自己啓発書の世界で飛ぶ鳥を落とす勢いを見せている作家・水野敬也。そんな水野が初めて劇場公開映画の脚本を担当したのが、唐沢寿明主演で“スーツアクター”の知られざる世界を描いた『イン・ザ・ヒーロー』だ。昨年9月に公開された同作は「ぴあ初日満足度ランキング」で1位を獲得し、共演の福士蒼汰に「第38回日本アカデミー賞」新人俳優賞をもたらすなど、大成功を収めた。
そんな『イン・ザ・ヒーロー』のブルーレイ&DVD発売を前に、ベストセラー作家にして新人脚本家の水野敬也に話を聞いた。水野はいかにして、この作品に携わることになったのか。そして、今後の野望とは──。
プロデューサー李鳳宇との出会い
──かつて、本作のプロデューサーである李鳳宇さんに「俺を育てろ」という手紙を書いたことがあるとか。
水野 あはは。いや、そもそもそうなんです。彼の作る映画がすごく大好きなんですね。『フラガール』を見たときに、めちゃくちゃ感動して、勝手にいきり立ってしまったんです。当時、李さんが授業をしている『スクーリング・パッド』というものがあったんですが、もう生徒の募集が締め切られていたので、手紙を書いて、自分の作品である『ウケる技術』(新潮社)っていう本と、『温厚な上司の怒らせ方』のDVDを一緒に送ったんです。「一般人より僕を育てた方が、日本映画界のためになる」って(笑)。
──なんという大胆な。李さんの映画の、何がそれほどまでに水野さんを惹きつけたのでしょうか?
水野 僕は映画の外側から構造を分析するということが好きなんですが、『フラガール』も、『パッチギ!』という映画もそうでしたけど、すごく美しい構造だったんです。ひとつの場面があったとしたら、そこに3つくらいの意味がある。ただ笑いを取るだけじゃなくて、その笑いの取り方がキャラの意味を説明していて、次の感動につながっていくような、重層的な印象があったんです。なんでそんなことができるのか、と。「育てろ」とは書きましたが、実は質問したいことがたくさんあって手紙を書いたんです。彼はプロデューサーなので、あまり表には出てきませんが、当時けっこうシネカノンの映画を見ていて、それらの作品に共通して関わっているのが彼だったので、彼のスタンスに興味があったんですね。当然、手紙は無視されましたけど……。
──その後、雑誌の対談で李さんと初めてお会いになった。
水野 「KING」(講談社)という雑誌の連載で、僕がインタビューをする企画があったんです。ただ普通のインタビューではなく、僕のキャラを出していいということで『グラップラー刃牙』でいうところの「今からオーガに会いに行く」みたいな感じで。矢沢永吉さん、中村勘三郎さんとか、偉い人ばかりに、講談社の人から「この人に会いに行け」と言われるんですが、そんなときに、ポーンと李さんが来たんです。いきなり。ちょっと不思議な感じだったんですが、この李さんって、あの李さんですか? っていう感じで、ホントにたまたまお会いすることができたという。
その後、いろいろ何か一緒にやろうという話になったんですが、少し時期が空いてから電話がかかってきて、「映画の脚本で、こんなのを面白いと思ってるんだ」「書いてみないか」と。正直、僕はそのとき『夢をかなえるゾウ』も出て、本がすごく売れていたので(笑)、映画の脚本を書いている場合なのかな、という思いもあったんですが、李さんから学びたいことがすごくたくさんあったので、誘惑に負けてしまいました。「やりましょう!」と。売れているから、とかそういうことより、最初の感動みたいなところに飛び込んでいきたいタイプなんでしょうね。
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