渡辺徹に学ぶ“しんどくない”生き方 フジテレビ『有吉くんの正直さんぽ』(1月31日放送)を徹底検証!
#テレビ #タレント解体新書
事実、番組の中で茨城県のアンテナショップにも行くことになるのだが、茨城県民の方には失礼な言い方になることは承知で、まあ、大したことはないわけである。そりゃあそうだろう。茨城県に限った話ではなく、その土地で愛されている素晴らしいものなんて、よそでありがたがるようなものではない。そして渡辺徹は「上げた」ハードルを「落とす」ように、茨城県の特産品を紹介する。自信を持って推せるものは、干し芋ぐらいしかない。クワの葉っぱのお茶も、取り立てて美味というわけではない。ワラで作った納豆を紹介する際は、製品として大量生産されている納豆と比べて「(味が)まったく違いますね」と言い切った渡辺徹だが、一同が感心する様子を見るとすぐに「いや、『まったく』は嘘ですけど」と正直に口にしてしまう。そういうものだろう。日常なんて、何か特別なことばかりがあるわけではないのだ。
しかしそれは、とここで一気に話を戻すが、しんどくない。心地よいしんどくなさだ。なんというか、それぐらいがちょうどいい。特別な何かがあるわけではない。干し芋ばかりが充実している。そこには勇ましい決意や言葉や態度はないけれど、しんどくない日常の景色がある。それぐらいで、いいんじゃないか。何もなくたっていいじゃないか。わざわざしんどくなる必要なんて、どこにもない。世界をギスギスさせるようなことを口にするくらいなら、干し芋をかじって笑っているほうがずっとましだろう。
渡辺徹の「上げて、落とす」というスタイルは、すべての芸事に通じる基本中の基本だが、同時に人生を生きる上での、基本中の基本でもある。「上げて」ばかりじゃしんどくなる。そのしんどさにずっと耐えられるほど、人はたぶん強くない。だからこそ人はユーモアや笑いを発明したのだし、テレビだってきっとそうだ。今の社会情勢を考えろとか、有事の際に何を呑気なことを言ってるんだとか、そんなのは本末転倒である。「落とす」ことができるからこそ、人生は生きるに値する。これは別に、理想論や夢物語なんかじゃない。少なくとも、渡辺徹は、それをずっとやっているのだ。
渡辺徹は銀座の街を歩きながら、こうつぶやく。何も特別な言葉じゃないが、だからこそ、どこか心に残る。
「銀座はやっぱり建物がおしゃれで、見て歩いてるだけで楽しいよ」
これぐらいで、いいんじゃないか。銀座だから特別なのではない。世界中のどこに行ってもその土地の景色はあり、「建物がおしゃれで」の部分を変えれば、どこでだってそう思うことはできるだろう。見て歩いてるだけで楽しい。世界はずっと昔からもう、そのようなものとして用意されているのだ。確かにしんどい世の中ではある。だけど、世界はそればかりじゃない。少なくとも2015年1月現在、私たちが暮らすこの国で、散歩は禁じられてはいない。
【検証結果】
『有吉くんの正直さんぽ』ではランチをどの店で食べるかという、極めてどうでもいいと思いがちだがとても大切な問題が、毎回のようにテーマとなる。この日はお店を探して歩く途中、ガード下にいろんなお店が連なっているスポットを発見。そこでは一軒一軒が日本のさまざまな地域の料理を提供しているのだが、もちろん茨城県に限定した店舗はない。そこで渡辺徹は「ここに茨城があった」と言って、指をさす。その指の先にあるのは、シャッターで閉じられた何かの跡地だ。そのジョークはとても面白かった。自分が茨城県の出身者だったら、もっと面白かっただろう。それぐらいの距離感でいい。それぐらいの愛がちょうどいい。しんどくない生き方へのヒントが、そこには確かにあったように思う。
(文=相沢直)
●あいざわ・すなお
1980年生まれ。構成作家、ライター。活動歴は構成作家として『テレバイダー』(TOKYO MX)、『モンキーパーマ』(tvkほか)、「水道橋博士のメルマ旬報『みっつ数えろ』連載」など。プロデューサーとして『ホワイトボードTV』『バカリズム THE MOVIE』(TOKYO MX)など。
Twitterアカウントは @aizawaaa
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