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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > 『お兄ちゃん、ガチャ』頭オカシイ?
テレビウォッチャー・てれびのスキマの「テレビ裏ガイド」第81回

幻想のいびつさを問いただす、野島伸司流『お兄ちゃん、ガチャ』という寓話

「初めまして。私のお兄ちゃんになってくれますか?」
「ヤダね」

 ミコがナツコのもとで見た「お兄ちゃん」たちは、「妹」に忠実だった。だが、トイは違う。自分の思ったまま、自分勝手な行動をするのだ。そしてほかの家族には優しい気遣いをしているように見えるのに、ミコにだけは終始冷たい。

 しかし、このトイはレアな「Sランク」のお兄ちゃんなのだ。

「SはSでも、ドSのSじゃない!」

 ミコはトイとともに、よりよい理想のお兄ちゃんを探し、再びガチャを回すのだ。

 「ガチャを引く女子はお兄ちゃんに恋人以上を求めてる」と、お兄ちゃんガチャを開発した博士は言う。また、ナツコは「彼氏はいらないの?」と訊かれ、こう答えている。

「彼氏なんか私はいらない。素敵なお兄ちゃんさえいれば金輪際いらないの。だって所詮別れるでしょ? 彼氏なんて。結婚しても離婚なんていまどき普通だし。要するに、永遠なんて約束されてないわけ。その点、お兄ちゃんは永遠じゃない。彼氏なんて野蛮で不潔な存在と比較すること自体が、あなたがいやらしい心の持ち主だということ。私たちはプラトニックで十分ですから。大人なんか汚い、いやらしい。私はなりたくない。ずっとメルヘンの世界に生きていきたい」

 彼女たちは「永遠の愛」を求める一方で、自分の理想と異なっていった時にそれを躊躇なく「捨てる」。その選択ができるのは自分たちだけ。相手には、常に自分の理想通りでいてほしい。そして、自分に優しくしてほしい。でなきゃ、あなたは「返品」だと。

 それが、アイドルとアイドルファンの関係や、エンタテインメント業界の構図の寓意であることは明らかだ。野島伸司は、その一方通行的ないびつな関係を、そのままジャニーズのアイドルたちを使って、アイドルファンが見るであろうドラマで描くのだ。やはり、頭がオカシイ!

 けれど、そんな関係性はいまやアイドルとアイドルファンにとどまらない。現実の人間関係でも起こっていることだ。人はアイドルや「お兄ちゃん」、あるいは別の何かに理想を重ね、夢を見る。そして、その夢を拠りどころに生きている。どこかでそれが幻想であることを知りながら。

 『お兄ちゃん、ガチャ』は幻想的な世界を徹底的に美しく、いびつに描くことで、そんな幻想を問いただしているのだ。
(文=てれびのスキマ <http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/>)

「テレビ裏ガイド」過去記事はこちらから 

最終更新:2019/11/29 17:50
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