世にも美しい図鑑、ドキュメンタリー『凍蝶圖鑑』ここはセクシャルマイノリティーが集う夢の楽園
#映画 #パンドラ映画館
『凍蝶圖鑑』を観ているうちに、この図鑑は単に異形な人々を紹介しているだけではなく、異形の人々と社会との関わりを描いていることに気づく。ミロさんは大学教授を講師として招き、性倒錯についてのマジメな勉強会を開いている。あずみさんは谷さんのカメラを通して自分を表現し、性的マイノリティーの人たちをテーマに撮り続けてきた谷さんはパリのエロチズム博物館で個展を開くことになる。また、トランスジェンダーであり、詩人でもある倉田めばさんは刑務所を回って、薬物依存の過去に悩む受刑者へのカウンセリングを行なっている。彼らは彼らなりの視点と方法で、現代社会としっかり関わっていることが分かる。凍蝶の美しさは表面的な派手さや物珍しさに由来するものではない。厳しい環境でも生き抜く、生の輝きがそこにはある。
大阪、神戸、京都、パリと1年がかりで凍蝶たちを追った田中監督は味のある関西弁でこう語る。
田中監督「これまで38年間、関西を拠点にドキュメンタリー、ドラマ、企業のPR作品といろいろ撮ってきたんです。あるとき、大黒堂ミロさんと知り合って、『なんでボクらを撮らへんの?』と言われたのが『凍蝶圖鑑』を撮り始めたきっかけ。性的マイノリティーを扱ったドキュメンタリーはいろいろあるだろうと思って調べてみたら、日本では中島貞夫監督の『にっぽん’69 セックス猟奇地帯』(69)か『セックスドキュメント 性倒錯の世界』(71)があるくらい。海外でも『モンド・ニューヨーク』(87)くらいしかなかった。それならやるかと(笑)。でも僕はいたってノーマルな人間で、そっちの世界のことは分からない。それで関西では“変態の大御所”であるミロさんに紹介してもらい、ドラァグクイーンの先駆けであるシャンソン歌手のシモーヌ深雪さんやカメラマンの谷さんに会うようになったんです。変態と言っても幅広いけど、僕は美しいものが好き。美しいものって人によって違うでしょ。だから、排除するとかではなく、スカトロジーは今回はちょっとなぁ……と(苦笑)。スカトロジーが嫌いだとかではなく、僕には撮れないということなんです。僕が美しいと感じるものを撮ったんだけど、みなさん、どうかな? 楽しんでもらえるといいなぁという作品なんです」
興味本位で見始めた『凍蝶圖鑑』だが、驚きはあっても嫌悪感を覚えるシーンはなく、不思議なほど心地よさを感じさせる。田中監督の手持ちカメラを、被写体たちは身構えることなく受け入れている。また、カメラの前を猫たちが度々横切るのも目立つ。猫は居心地のよい場所を見つける天才だ。田中監督がカメラを向けた空間は、性的マイノリティーに限らず、ノーマルな人間にも、動物たちにとっても安らげる場所らしい。そしてクライマックスは、変態夫婦gonchang&akiko babyの結婚10周年記念パーティー。変態バーで出会ったサディストの夫とマゾヒストの妻との愛に満ちた10年間を祝うため、パーティー会場は様々な変態さんやクリエイターたちが集うユートピアと化している。
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