90年代サバサバ脳を、コント仕立てでお届け! NHK有働由美子『ウドウロク』の正しい読み方
#本 #NHK #有働由美子
また、本書で繰り返し述べられるのは、自身の容姿への、アナウンス能力への自己批判、そして40代独身であることの虚しさだ。数々のNHK看板番組のキャスターをこなし、NY特派員を経験し、紅白歌合戦の総合司会に抜擢され、NHK最大の賭けだった『あさイチ』も成功させ……。有働アナが築き上げた輝かしい実績を考えれば、なんら自身を蔑む必要はないはず。しかし『あさイチ』を観ていれば、なんとなく分かる。イケメン俳優が来れば、大げさに浮かれる。スーパー主婦(家事機能抜群のスペシャリスト)が紹介されれば、自分の家事力の低さを嘆く。有働アナは超有能であるがゆえに、「イケメンに浮かれるおばちゃん」や「私生活はだらしない中年女」を自然と演じてしまうのだ。視聴者を、親しみやすさの渦に巻き込む。わき汗も下ネタも容姿/仕事能力への悲観も、スーパーエリートである自分をダウンサイズさせるための演出。そんなことしなくてもいいのに……と思っても、せずにはいられないのだ。すべては、サバサバしたイイ女であるために。
『29歳のクリスマス』では、不器用ながら一生懸命仕事をこなす主人公を、必ず評価してくれる誰かがいた。有働アナの場合、それは視聴者。どんなに自虐しても(といっても、書かれていることはそれほどではないが)、本当はそうじゃない、あなたはデキる子と理解してくれる。「自他ともに認めるクロい部分も、ちょっとだけあるシロい部分も、包み隠さず書いてみました」とは帯の一文。Twitterのプロフィールに「毒吐きます」と書く人が大して毒を吐いていないのと同じように、有働アナの自称「クロい私」は、お堅いNHKという檻の中でのみ有効なお家芸である。彼女が繰り出す「毒舌」も「自虐」も、あくまで「コント“独身女性アナ”」に回収されるラインを出ない。だからこそこの本は、大いなる「有働劇場」に身を任せたほうが数倍楽しく読める。「この部分、友近がネタにしそうだな」……ではなく、「有働さん、あんなに優秀なのに、こういうところ、私と一緒じゃん!」とか「分かる分かる! 私も下ネタ言って引かれちゃう!」とか言いながら。あまりにもベタなサバサバ表現が、スベっていることも気にしない。これはサバサバを一切メタ化することなく、己のアイデンティティにまで昇華させた有働由美子だからこそ成せる業だ。今なおNHKのエースとして独走する理由は、視聴者を有働劇場という自分のテリトリーに誘い込むうまさにあるのだと思う。
きっと今年の紅白も、きちんと仕事をこなしつつ、適度にフザけ適度にズッコケ適度に自分を見世物化するんだろうなぁ。NHK広報局のTwitterを見たら、有働アナが「紅白でセーラー服が着たい」と息巻く様子がツイートされていた。「有働劇場~紅白特別編」はすでに始まっている……。
(文=西澤千央)
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