戦争とはこういうものだ――ブラッド・ピット主演・製作総指揮の戦争アクション『フューリー』
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今週取り上げる最新映画は、ブラピが第2次大戦の戦車乗りに扮するハリウッド製アクションと、人間の顔が瞬時にモンスターに変形するVFXが話題の和製ホラーアクション。どちらも衝撃的な映像に目を奪われるが、生きることの意味や仲間・家族の絆を描く人間ドラマの要素も見逃せない。
『フューリー』(公開中)は、ブラッド・ピットの主演・製作総指揮で第2次世界大戦下の戦車バトルを描く戦争アクション。1945年4月、ドイツへ侵攻する連合軍の戦車部隊に、「フューリー」(激しい怒り)と命名されたM4中戦車シャーマンを指揮する米兵ウォーダディー(ピット)がいた。歴戦でチームワークと信頼を築いてきた3人の乗員に、戦闘経験のない新兵のノーマンも副操縦手として加わり、凄惨な戦場を進んでいく。敵の奇襲攻撃に応戦し、ドイツ兵が立てこもる村を制圧した後で、ウォーダディーは戦略の要所となる十字路を確保せよとの新たな任務を受ける。5人が乗ったフューリーは、ほかの3輌の戦車と目的地へ向かう途中、当時世界最強と言われたドイツ軍のティーガー戦車に遭遇する。
監督・脚本は『エンド・オブ・ウォッチ』(2012年)、『サボタージュ』(公開中)のデビッド・エアー。映画業界に入る前は米海軍の潜水艦乗りだった経験を生かし、ストーリーから兵器、兵士たちのドラマまで、戦争のリアリティーに徹底的にこだわった。自走する本物のティーガー戦車が映画史上初めて使用されるなど、軍事マニアを歓喜させるポイントもたくさん。ウォーダディーの的確な判断と指揮の下、フューリーの乗員たちが連携してティーガーに果敢に立ち向かうシークエンスでは、「レッド・オクトーバーを追え!」の潜水艦の攻防のような兵力・知力・胆力を総動員したバトルが展開する。
ただし連合軍の勝利を賛美する映画ではなく、被弾した兵士の胴体や手足が吹っ飛んだり、兵士の遺体を戦車のキャタピラが踏みつぶして進む悲惨な光景もしっかり描き出す。新兵のノーマンが、投降して命乞いをするドイツ兵を射殺するよう命じられ、やがて“殺人マシン”に変わっていく姿にもどこか悲壮感が漂う。勧善懲悪でも戦いの美化でもなく、「戦争とはこういうものだ」と提示する本作は、戦争の記憶が失われつつある日本でも観るべき価値のある力作だ。
『寄生獣』(11月29日公開)は、80~90年代に連載された同名人気コミックを、VFX畑出身の山崎貴監督が実写映画化した2部作の前編。人間の脳を乗っ取って肉体を操り、ほかの人間を捕食する謎の寄生生物=パラサイトが、人知れず増殖していた。高校生の新一(染谷将太)もパラサイトに襲われるが、脳を奪えず右手に寄生した「ミギー」と共生することに。パラサイトたちが静かに勢力を拡大する中、一部のパラサイトが暴走し、新一とミギーも争いに巻き込まれていく。
先に映像化権を獲得していた米配給会社が断念し、連載終了から約20年後にようやく日本での実写映画化が実現した。その間に邦画のVFX技術が進歩したおかげで、顔がパックリ割れて鋭利な刃物のように変形する衝撃的なビジュアルが見事なクオリティーで描かれており、原作ファンも長年待ったかいがあったというもの。深津絵里や東出昌大ら、俳優たちの整った顔が一瞬でおぞましいモンスターに変形する様は強烈だ。染谷将太の冷めたルックスも、ミギーとの奇妙な共同生活を余儀なくされる主人公にぴったりで、相棒のミギーは、阿部サダヲが声とパフォーマンス・キャプチャーによる動きを担当している。
パラサイトと人間が殺し合うというエキセントリックな設定の中に、生きることの意味、共生とは、親子とはといった普遍的なテーマを問う作品でもある。浅野忠信、北村一輝らの暴れぶりが期待できそうな完結編(来年4月公開予定)も今から楽しみだ。
(文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉)
『フューリー』作品情報
<http://eiga.com/movie/80328/>
『寄生獣』作品情報
<http://eiga.com/movie/79555/>
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