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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > なりすましタモリの『ヨルタモリ』
テレビウォッチャー・てれびのスキマの「テレビ裏ガイド」第72回

「どうなっちゃってるのよ、今のテレビ!」『ヨルタモリ』でタモリが“なりすまし”ているもの

yorutamori1.jpg『ヨルタモリ』フジテレビ

「この星のテレビは、タモリがいないと寂しい」

 これはサントリーBOSSのCMのコピーだが、『笑っていいとも!』(フジテレビ系)終了後の、視聴者の「タモロス」と呼ばれる気分を言い当てた言葉だ。もちろん、タモリは『ミュージックステーション』や『タモリ倶楽部』(ともにテレビ朝日系)のレギュラーは続けているので、実際には「タモロス」というのはおかしな話なのだが、やはり30年以上続いた、タモリ=『いいとも』という構図と日常感が、どうしても喪失感を生んでしまっていたのだろう。

 そんな中、ついにタモリがフジテレビに帰ってきた。10月19日から、『いいとも』以後、新しいレギュラー番組は初となる新番組『ヨルタモリ』(フジテレビ系)がスタートしたのだ。

 これは、とあるバーを舞台にした、タモリと宮沢りえによる番組。タモリに会いに毎回ゲストの芸能人が来店し、ゆる~いトークを繰り広げるという内容だ。実は、タモリと宮沢はかつて飲み仲間だった。それは宮沢が20代前半の頃。よくバーで居合わせ、一緒に飲んでいたという。ある時などは、席が隣になったこともあった。その時、タモリは宮沢のあまりの美貌に思わず「すみません、今から2分間、ジッと見ていいですか?」と断って、2分の間、その姿を見つめたという。そんなふたりの番組がどんなものになるのか、事前情報はほとんどなかった。

 番組は、「東京の右半分」(これもタモリが最近ハマっている場所だ)の湯島あたりに、宮沢がママを務めるバーが開店するところから始まる。先客には音楽家の大友良英、自称・漫画家の能町みね子がいる。ふたりとも、自他共に認める重度のタモリフリークだ。すると、程なくしてタモリがやってくる。いや、ただの「タモリ」ではない。関西人の町工場の社長に「なりすまし」たタモリだ。一緒に連れ立った“弟”に、しきりに「体の重心」について説いている。そしてそのまま、ママとゲストとともに突飛なトークを繰り広げる。

 話題が「着物」に飛ぶと、「着た時に『女が出来上がった』と思うんです。だから、手順が長いほどいいんです。襦袢着る、あれ着る、紐結ぶ……。どんどんやっていって、スッと見た時に、『女や。私なりの女ができた』と」などと、含蓄のある話を披露するタモリ社長。そして、「一度脱がしてみたいね」とおどける。

 やがて、ママが「最近面白いテレビがあるから」とつけたテレビ画面に映ったのは、『世界音楽旅行~スペイン~』なる番組。フラメンコギタリストの沖仁らが演奏している。その演奏に合わせ、どこかで聴いたことがある歌声が聞こえてくる。カメラがその歌い手を捉えると、長髪のフラメンコ歌手、マヌエル・デ・オルテガの姿が映し出される。もちろん「なりすまし」たタモリだ。情熱的なハナモゲラ・フラメンコを、見事に歌い上げている。

 さらに『虫ドッキリ(秘)報告』なる番組も始まる。ハエがドッキリにかかるという番組らしい。そのハエの正体は、全身タイツを着て形態模写をするタモリだ。殺虫剤ではなく潤滑剤を浴びせられるハエタモリ。そして、フローリングに足を取られるハエタモリ。そんなシュールな映像を見て、絶句するママ。

「どうなっちゃってるのよ、今のテレビ!」と。

 正直言って、バーを舞台に、ゲストを招いたユルめのトーク番組なんだろうとタカをくくっていた。タモリの話をじっくり堪能できるなら、それで十分だと思っていた。しかし、そんな予想は、いい意味で完全に裏切られた。全編にわたって、タモリの「芸」の神髄である「なりすまし」が行きわたった、タモリイズムあふれる番組だったのだ。

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