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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.292

『キス我慢選手権』の最中に“アイ”を叫んだけもの 劇団ひとりこと川島省吾は脚本なき人生を生きる!!

kiss_gaman2_03.jpg平和な学園があっという間にディストピアに。あのセクシーだったみなみ先輩(小島みなみ)はゲリラ兵に身を投じていた。一体何が起きた?

「みんなヘラヘラ笑っていると思っていたら、お門違いだぜ。みんな無理してでも笑っているのさ。でも、無理して笑っているうちに、本当におかしくなってくるんだよ」

 そんな名台詞が省吾の口から即興でこぼれ落ちていく。省吾の言葉に促され、笑ってみせる亜衣。でも、まだ表情がぎこちない。すぐさま、「固いな」とツッコミを入れる省吾。思わず、亜衣ははにかんだ笑顔を浮かべる。この瞬間、スクリーンを観ていた観客は誰もがこのヒロインに恋をしてしまう。いつの間にか雨も止み、プールサイドに夜の帳が降りてきた。でも、亜衣の心には小さな明るい灯りが確かにともされていた。

 物語はこの後、SFアクションムービーとして怒濤の展開を見せていく。『悪の教典』(12)でサイコパス教師を怪演した伊藤英明、謎のシステムを管理する研究員たち(入江雅人、戸次重幸)らが絡み、時空を越えたスケールの大きな物語へと転じる。予測不能な状況を懸命にクリアしていく省吾。プールサイドで将来の夢を語り合った後、離ればなれになった亜衣ともう一度逢うために。

 「生物は遺伝子によって利用される乗り物に過ぎない」という学説がもてはやされたことがあった。だが、省吾はこの学説を真っ向から否定してみせる。人間の一生を決めるのは遺伝子ではない。アドリブの積み重ねこそが、その人の人生なのだ。さらに言うならば、アドリブとは単なる思い付きや口からのでまかせではない。お笑い芸人として、あらゆるメディアの中で常に鍛え抜いてきた劇団ひとりだからこそ、自在に繰り出すことができる必殺技なのだ。そして演じることに集中している劇団ひとりは、ほぼトランス状態だ。演じるということは、フィクショナリーな行為ではなく、潜在意識下のもうひとつの人生を生きるということでもある。

 本気モードになった省吾は、物語のクライマックスで亜衣の名前を全力で叫ぶ。もはや省吾の前では、脚本家が用意した筋書きも、『キス我慢選手権』のルールも役に立たなかった。誰もが予想しなかった驚きのエンディングが訪れる。そして、ラストシーンを見届けた観客はあることに気づく。キャラクターとは物語に支配されている従属物ではないということを。キャラクターこそが物語を動かしているのだということを。言い換えれば、人間は遺伝子やシステムに支配されているのではないということだ。遺伝子やシステムに支配されているという我々の思い込みを、劇団ひとりは熱いキスで解き放ってみせる。世界を根底から変えてしまうような、甘く情熱的なキスがここにある。
(文=長野辰次)

kiss_gaman2_04.jpg

『ゴッドタン キス我慢選手権 THE MOVIE2 サイキック・ラブ』
監督/佐久間宣行 脚本/森ハヤシ、佐久間宣行 構成/オークラ 音楽/岩崎太整 主題歌/森山直太朗「五線譜を飛行機にして」 出演/川島省吾(劇団ひとり)、おぎやはぎ、バナナマン、福士誠治、中尾明慶、柄本時生、安井順平、上原亜衣、小島みなみ、白石茉莉奈、松丸友紀(テレビ東京アナウンサー)、三四郎、東京03、深水元基、マキタスポーツ、入江雅人、戸次重幸、近藤芳正、伊藤英明 配給/東宝映像事業部 PG12 10月17日(金)よりTOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国ロードショー 
(c)2014「キス我慢選手権 THE MOVIE2」製作委員会
http://www.god-tongue.com

最終更新:2014/10/18 19:00
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