『キス我慢選手権』の最中に“アイ”を叫んだけもの 劇団ひとりこと川島省吾は脚本なき人生を生きる!!
#映画 #パンドラ映画館
例によって撮影内容をまったく知らされずに現場に放り込まれた劇団ひとりこと川島省吾は、学生服を着ての登場。学園ものは劇団ひとりの得意ジャンルだ。学校中の生徒たちみんなが、省吾に声を掛けてくる。どうやら省吾は勉強もでき、スポーツも万能な学園きっての人気者らしい。「先輩、遊びに連れてって」「省吾、今度の試合もよろしくな」と次々と声を掛けてくる共演者たちに、爽やかな笑顔で応える省吾。本当に脚本を渡されていないことが信じられないほど、映画の世界に溶け込んでみせる。そんな省吾に甘い罠を仕掛けるのは白衣の下に柔肌がチラつく保健室の白石先生(白石茉莉奈)と高校生らしからぬセクシーな衣装で誘惑するみなみ先輩(小島みなみ)。この序盤のピンチを劇団ひとりは童貞キャラで乗り切る。童貞らしい、どうでもいい理屈を並べたてて、キスの間合いをギリギリ寸止めで逃げ切る劇団ひとり。海外ドラマに出てきそうなノー天気な人気者キャラから、一転してモジモジした童貞キャラにスイッチング。まさに劇団ひとりの独壇場である。
今回の劇団ひとりはアドリブに追われるだけでなく、劇団ひとり抜きでリハーサルを重ねている共演陣に逆襲を仕掛けるのも大きな見どころ。『ゴッドタン』のもうひとつの人気企画『芸人マジ歌選手権』でおなじみのマキタスポーツを相手に、劇団ひとりはアドリブ勝負を挑む。物語の中盤、廃工場に集まった省吾たちは景気づけのために思い出の歌を歌い出す。ところがこの歌は劇団ひとりがその場でとっさに考えた即興の歌。「えっ!?」と戸惑いの表情を浮かべながらマキタは必死で食らいついていく。一発撮りならではの緊張感が生み出す爆笑シーンだ。そして今回、劇団ひとりが暴走しすぎて物語から脱線しないようにナビゲートする役割を担っているのは同級生役の安井順平。お笑い好きな方なら覚えているだろう。まだ若手芸人だった劇団ひとりが「スープレックス」という名でコンビをやっていた頃、「アクシャン」としてコントをやっていたのが彼だ。スープレックスやアクシャンはよくお笑いライブで名前を連ねていた。安井は2007年以降、劇団イキウメの一員として舞台を中心に活動している。2人は何年ぶりの邂逅だろうか。映画の本番中にいきなり旧友と再会し、驚きながらも安井のリードに従って物語の流れに乗っていく省吾。パラレルワールドで懐かしい友達が別人になって現われたような、そんな不思議な感慨がドラマの中に広がっていく。
本作の最大のハイライトは、ヒロインである上原亜衣と省吾とが2人っきりで過ごす夕暮れのプールサイドでのシーンだ。『キャリー』(13)のクロエ・グレース・モレッツばりの特殊能力を持っているため、亜衣は幼い頃からずっと心を閉ざして生きてきた。陽の当たらない人生を歩んできた亜衣にとって、学園の人気者である省吾は羨ましい存在だった。放課後の誰もいないプールサイドで、亜衣はプールの水面を見つめながら「心から笑ったことが一度もない」とこぼす。亜衣の心情に感応したかのように小雨が降り始めた。雨に濡れながら自分の少年時代を振り返る省吾。子どもの頃はいじめられっ子で、それが嫌で必死で勉強やスポーツに励み、人気者になったのだと。生まれつきの人気者ではなく、人気者であることを懸命に演じているだけなのだと。
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