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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > 「ケイブンシャの大百科」今昔物語
【バック・トゥ・ザ・80'S】Vol.16

小さい誌面にディープな情報がみっちり詰まった「ケイブンシャの大百科」今昔物語!

keibun02.jpg記念すべきシリーズ第1弾

 まだインターネットの存在などまったく世の中に知られていなかった80年代。人々の情報源は、テレビ、ラジオ、そして雑誌や新聞などの紙媒体だった。

 それは子どもの世界でも変わることはなかった。「てれびくん」「テレビマガジン」「テレビランド」などのテレビ情報誌や、小学館の学年誌。はたまた「コミックボンボン」「コロコロコミック」などの漫画雑誌が、子どもたちの情報源として日本中で重宝されていた。

 しかし、これらの雑誌に掲載されている情報の大半は、広く浅い内容だったことも事実。
「もっと深く、もっと多くの情報を知りたい!」という具合に、子どもたちの知的好奇心は、やがて雑誌からの情報だけでは満足しきれなくなってきたのだ。そんな僕らを魅了していたのが、今はなき出版社・勁文社から発行されていた「ケイブンシャの大百科」シリーズだ。手のひらに収まるコンパクトサイズな豆本ながら、ちょっとした辞書のような分厚さを誇るこのシリーズは、まさに「大百科」と呼ぶにふさわしい充実した内容で、子どもたちにお値段以上の価値を感じさせてくれた。今回は、そんな80年代の「ケイブンシャの大百科」のお話だ。

■オタク第1世代が大百科にもたらした影響

 まずは、「ケイブンシャの大百科」の簡単な歴史を解説しよう。怪獣ブーム真っ盛りの1971年、勁文社の編集者であった佐野眞一氏が編集を手掛けた『原色怪獣怪人大百科』が大ヒットを記録。その後、佐野氏は同社を退社しノンフィクションライターとして活動を開始するわけだが、『原色怪獣怪人大百科』は毎年、登場怪獣数を増加しつつ『全怪獣怪人大百科』として発売されるようになる。そして70年代後半に子ども向けの豆本に再編集される。これが「ケイブンシャの大百科」シリーズの第1弾となり、以降、勁文社が倒産する2002年まで続く超ロングランシリーズとなる。

 「大百科」シリーズの題材となったのは、特撮、アニメ、ゲーム、プラモデル、ラジコンといったホビーからプロ野球、映画タレント、アイドルなどの芸能・スポーツ。はたまたクイズ、お料理、昆虫、動物などの雑学まで多種多様。当時の子どもたちは、分厚い誌面に大量の情報が詰まった、コストパフォーマンスのよすぎる大百科を穴が開くほど読みふけった。このシリーズを読みすぎて、うっかりオタクの扉を開いちゃった子も少なくはないはずだ。そんな「ケイブンシャの大百科」がよりディープに、よりマニアックに進化していったのが80年代初頭のことだ。

「当時はオタク文化がちょうど盛り上がってきた頃で、その頃からマニア相手にも作り始めた面はあります」

 そう語るのは、80年代初頭に勁文社で「大百科」シリーズを編集していた編集者・黒沢哲哉さんだ。

「当初は『大百科』シリーズには子ども向けの図鑑、というイメージがあったのですが、80年代初頭に(50~60年代生まれの)僕ら世代が勁文社に入ってきたことで、ちょっとずつノリが変わってきたんだと思います。当時、朝日ソノラマが昔の懐かしいものを掲載した雑誌『宇宙船』を出し始めたり、ガンダムブームが起こって、そこで出てきたマニア向けの要素を子ども向けの本にも入れ始めたんです。その結果、子ども向けというスタンスはそのままに、大人にも価値がある本が生まれ始めました。例えば、最初はそんなにデータとかもしっかりしてなかったけど、だんだんとスタッフやキャスト、放送日などのデータもちゃんと入れようよとかね」

keibun07.jpg分厚い横面

 80年代初頭といえば、いわゆるオタク第1世代が世に出始めた時代である。幼少期より、テレビや漫画、SFなどのサブカルチャーに親しんできた黒沢さんたち、オタク第1世代が「大百科」シリーズに参加することで、どんどん「大百科」シリーズは濃い内容になっていった。

 当時は今と違って、まだまだオタクカルチャーが世間に認知されるはるか昔の時代。当然、マニア向けの資料集など『機動戦士ガンダム』や『宇宙戦艦ヤマト』など大ヒット作以外はごくわずか。ということで、子どもに交じって「ケイブンシャの大百科」を買い求めるアニメ・特撮オタクも少なくはなかったそうだ。

 ちなみに筆者が「大百科」シリーズに初めて触れたのはこの時代。当時では考えられなかった、いつも見ているテレビの中では怖~い女幹部が、大百科の中ではヒーローと一緒に笑顔でピースしているというオフショット写真がバンバン掲載されたり、今で言うところの同人テイスト満載のコミカライズが掲載されていたことをよく覚えている。

 この頃、特撮番組の舞台裏がメディアに出ることは出版業界では異例の事態だったらしく、SF雑誌・オタク向け雑誌編集部から「レギュレーション違反だ」というようなクレームもあったそうだ。

 とはいえ、当時まだ幼かった自分は「大百科」シリーズの、業界内のご法度記事を通じて「特撮ヒーローの舞台裏」にブラウン管には映らない大人の世界を感じ、後に立派なオタクになるきっかけとなったことは間違いない。そう考えると、「ケイブンシャの大百科」が当時のオタクカルチャーに与えた影響は小さくはなかったのではないだろうか。

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