動物虐待防止協会が煽ったカンガルー大虐殺映画!!『荒野の千鳥足』が43年の歳月を経て日本初公開
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たかがビールと侮るなかれ。アルコール度数の低いビールだが、長時間にわたって飲み続けると、ボディブローの連打を喰らったようにじわじわと体が言うことを聞かなくなってくる。いや、ビールだけで止めておけば、まだよかった。ビールを飲んでご機嫌になったジョンは、地元の男たちがみんな参加しているコイン投げゲームに参加する。ビギナーズラックでどんどん気が大きくなっていくジョン。気がつけば翌朝で、ジョンは持ち金全部を使い果たし、シドニー行きの切符すら買えなくなっていた。だが、ヤバの人たちはそんな彼にもとことん優しい。面倒見のいい地元の紳士の自宅に誘われ、闇医者のドク(ドナルド・プレザンス)やケンカ好きなハンターたちと一緒にビールを痛飲! 痛飲! また痛飲! 誘われるがままにカンガルー狩りにも同行。いつしかジョンは汗まみれ、ゲロまみれ、(カンガルーの)血まみれのドロドロ状態に。何度もこの状況から脱出しようとするも、朝になると泥酔姿で目覚めてしまう。カフカの不条理小説『城』のように、いつまで経っても目的地に到着できないまま、小さな町ヤバから抜け出せなくなってしまう。まるでヤバという町自体が食虫植物のごとく、若いジョンを絡め獲ったかのようだ。
見知らぬ町に迷い込んだ主人公が軽い気持ちでビールとギャンブルにハマってしまい、やりたくもないカンガルー狩りに加担してしまう。そんな自己嫌悪から、さらにビールを飲み干してしまい、悪循環から抜け出せなくなる。デヴィッド・リンチ監督の『ブルーベルベット』(86)は悪夢的世界を幻想的に美しく描いていたが、本作は悪夢的世界をひたすら忌わしくザラついた手触りで描いていく。テッド・コッチェフ監督は、後にスタローン主演作『ランボー』(82)をヒットさせたカナダ人。どちらも主人公が見知らぬ町でささいなことから追い詰められ、破滅を招くという展開で共通している。カンガルーの大虐殺場面は、地元のハンターたちが実際にカンガルー狩りをする様子を撮影したフッテージ映像であり、ドラマパートと繋ぎ合わせることで生々しい作品に仕上げた。イギリスの王立動物虐待防止協会が本作の撮影に立ち会ったが、カンガルーが虐待されている事実を世界にアピールするために「できるだけ残酷な映像を使ってほしい」とテッド監督に要請していたそうだ。どうしようもなく暇を持て余した人間は、酒かギャンブルか暴力かセックスに溺れるしかない。当時のオーストラリアの人たちが、この映画のことを嫌ったのも無理はないだろう。
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