トップページへ
日刊サイゾー|エンタメ・お笑い・ドラマ・社会の最新ニュース
  • facebook
  • x
  • feed
日刊サイゾー トップ > カルチャー > 本・マンガ  > 風俗嬢の給料は会社員並み?

月収はサラリーマン並みなのに……「やりがい」を見いだす風俗嬢たちのリアル

51OKTOBByFL.jpg『日本の風俗嬢』(新潮新書)

 「風俗嬢」のイメージは両極端だ。ブランド品を買い漁ったり、ホスト遊びに明け暮れるなど、派手な生活をしているイメージがある一方、「借金のカタに売られて……」「ソープに沈められる……」など、悲壮感に満ちたイメージも根強い。けれども、ルポライターの中村淳彦氏が新著『日本の風俗嬢』(新潮新書)で明らかにした彼女たちの生活は、そのどちらにも当てはまらない。彼女たちのリアルは、驚くほどに一般人の生活と変わらず、その仕事にはやりがいすらを見いだしているのだ。


 2000年代に入り、風俗をめぐる環境は激変した。長引く不況とデフレによって夜の街に流れる金が激減したこと、1999年の風俗営業適正化法改正によってデリヘルが事実上合法化され、爆発的に店舗数を増やしたこと、また「草食男子」と呼ばれる性に強い興味を示さない男性が増えたこと。さまざまな要因が複合的に重なり、風俗業界は不況の苦しみにあえいでいる。にもかかわらず、風俗嬢を志願する女性は増加の一途をたどり、需要と供給のバランスは完全に崩れている。もはや、風俗嬢は決して「儲かる」商売ではなくなりつつあるのだ。

 中村氏の推計によれば、日本には1万3000店の風俗店が存在し、およそ35万人あまりの女性たちが風俗嬢として働いている。これは、品川区や所沢市の人口とほぼ同数。しかも、中村氏の推論によれば容姿やコミュニケーション能力の問題で、風俗嬢になることすらできない女性が、さらに同数程度存在する。風俗嬢になるには「狭き門」をくぐらなければならなくなっているのだ。本書では、60分1万8000円の平均的なデリヘルの採用実態がこう語られる。

「年齢に問題のない女性を20人面接して、採用するのは多くて3人。過半数は風俗嬢として耐えうるレベルに達していないので断る」

 風俗嬢として働くことは、「体を売るしかない」という最終手段だったはずだが、現代ではそこに入店することもままならない。女性たちのレベルが著しく向上しているにもかかわらず、その価値が下落の一途をたどっているという現状は、風俗を利用する男性にとってはこの上なくうれしいことだが、そこで働く女性たちにとってはたまったものではないだろう。だが、風俗嬢たちの中には、この仕事に「やりがい」を見いだしている女性も少なくないという。

「完全出来高制で頑張りが報酬に反映されて、収入に上限がなく、最近は年齢の上限もない。男性たちにも注目をされるから、本当にやりがいがあるといった意識を持つ者もいる。そのため90年代以前と比べると圧倒的に稼ぐことが困難になっているにもかかわらず、前向きに働く女性が増えている」(本書より)

 報酬が下がっても、それを補うやりがいを見いだせる。もしも「裸になって男性にサービスを行う」ということに抵抗が薄ければ、「悪い仕事ではない」と思う女性がいても不思議ではない。では、そんな「やりがい」をもって働く彼女たちは、いったいどれほどの金額を手にしているのだろうか?

 中村氏の推計によれば、サービスレベルも高い美女が勤める総額6万円の高級ソープランドで月収128万円という高給だが、都市部の人気ピンクサロンで月収36万円、格安デリヘルでは月収33万円、地方のデリヘルでは月収25万円、地方のピンサロでは月収22万円。もちろん、高級店に勤められる女性は、本番可能ということも含めてそれなりの商品価値がある女性。ルックスが良く、スタイルが抜群で、サービスレベルも高い女性でなければ、体を売ってもサラリーマンとほとんど大差のない金額しか手にすることはできない。

「まだまだ風俗嬢という職業には、社会的にスティグマを押されている。それでもその道を選んでカラダを売る以上は、高収入を目指すべきだろう。また、その能力がある女性だけが目指したほうがいいように思う。そして、能力的にそれがかなわないならば、近づかずに別の道を探すべきなのだと思う」(同)

 もちろん、女性たちが風俗を始める動機には「お金」があり、その背景には非正規雇用やシングルマザーといった「貧困」があることもしばしばだ。けれども、だからといって、彼女たちが後ろめたさを感じながら「金のために」体を売っているわけではない。その中で、やりがいを見つけて、ポジティブに風俗嬢として生き抜いており、もはや風俗を「社会の歪みである!」と息巻いて告発することは実態にそぐわなくなってきているのだろう。中村氏は「社会の劣化と連鎖して生まれたポジティブに働く風俗嬢の姿を眺めて、このままでいいのだろうかという疑問は拭えない」と複雑な胸中を語っている。

 本書を読んでいると、“最古の職業”である風俗嬢のリアルな姿は、現代日本を映しとる鏡のようであることがわかる。
(文=萩原雄太[かもめマシーン])

最終更新:2014/09/24 21:00
ページ上部へ戻る

配給映画