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鬼才キム・ギドクの“秘蔵っ子”インタビュー

友好か忠誠か――『レッド・ファミリー』北朝鮮スパイ一家が問いかける“家族の意味” 

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――北のスパイを描くに当たって、監督自身、取材などをしたのでしょうか?

イ監督 まず、資料集めをたくさんしました。北朝鮮のスパイがどうやって韓国で活動したのかという事例を探して。最近の事例は、国家情報院が明かさないからわからない(笑)。でも、昔の資料は多いんです。70年代には、偽装夫婦のスパイもいました。そういう人たちが武器をどこに隠していたか、どうやって本国と連絡を取っていたかを調べたわけです。映画でも描写しましたが、本国からの連絡は、ラジオの周波数を合わせて暗号を受け取っていました。「1、10、8……」などと、数字がたくさん送られてくる。それが暗号になっているのです。一般の人がラジオをいじっていたら、たまたまそれが聞こえたなんてこともあったそうです。

 また、資料の調査だけでなく、脱北者の人たちにも協力してもらいました。男性1人、女性1人。その男性は、北朝鮮で軍隊にも入っていた方です。軍隊の話や、敬礼の仕方なども教えてもらいました。

――敬礼といえば、北のスパイが表彰されるシーンで出てきますよね。あの「万歳!」の場面は、コミカルで笑ってしまいました。

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イ監督 もちろん、笑うところですよ。ありえないシーンですからね。でも、ヨーロッパの映画祭で上映したら、誰も笑ってくれず……。みんな深刻そうに見ていました(笑)。そういう文化の違いは、どうしようもないですよね。でも、ただ笑わそうとして撮ったわけではありません。あの空間は徹底的に北朝鮮でなければならなかったし、体制の空気が感じられなければなりませんでした。一歩ドアを開けたら、外は資本主義の空気。その違いを明白に出すためのシーンでもあったんです。

――なるほど。撮影中、どんな苦労がありましたか?

イ監督 一番危惧したのは、映る空間が限定的になってしまうというところです。ほぼ二つの家が舞台になっていますからね。観客の中には、それが窮屈と感じる人もいるかもしれません。だから、なるべく演劇を眺めているような構図で撮るようにしたし、そうできる家を探しました。家自体が演劇の舞台に見えるような。

 あと家探しで気をつけたのは、二つの家族の家の間にある垣根の高さです。映画の中では、その垣根が南北を分断する軍事境界線を意味しています。だから、あまりに低いとおかしい。簡単に越えられそうでは、現実の南北関係の現状と合いませんから。かといって、高すぎてもまったく交流ができないので、それもダメ。ちょうどいい高さの垣根を苦労して探しましたよ。実際には微妙な高さの垣根も、劇中では南北を隔てる高い壁に見えると思います。でも、二つの家族は垣根越しに会話をして、次に物や鳥が垣根を越えていき、最後には人が越えていきます。みんなが軍事境界線を越えていくんです。

――あの垣根は軍事境界線……。だから、それを越えた北の家族は処罰されてしまう、と。

イ監督 そうです。映画を見た人は、「なぜ、彼らはあんなひどい処罰を受けるのか」と思うかもしれませんが、4人はとんでもないことをしていたわけです。南北を混ぜてしまったのですから。最後には、二つの家族が島にキャンプしにいきますよね。そこには、もはや“境界線”はありません。

 島のシーンは本当に苦労して撮影しました。映画で流れている映像と、まったく同じ順序で撮影したんです。俳優たちが自らテントを張って、海で遊んで……。だから彼らは十分、感情移入できたと思いますし、撮影では本当に嗚咽していました。カメラを回していて、私自身も本当に悲しかった。北の家族が船に乗せられるシーンは、本当に処刑場に連れて行かれているように見えました。船のシーンなので、何人かのスタッフは島に残ったのですが、彼らも「本当に死にに行くようだ……」と話していましたね。撮影現場全体が軽口を叩ける雰囲気ではなかったから、とても印象に残っています。

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