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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.288

天才・楳図かずお19年ぶりとなる最新作『マザー』。家族に対する“罪悪感”がモンスター化する恐怖!

mother_umezu02.jpg上方歌舞伎の人気俳優・片岡愛之助と宝塚歌劇団出身の舞羽美海が共演。関西を代表する伝統的ショウビズ界からのキャスティングとなっている。

 絶対的な守護者であるはずの母親が自分に襲い掛かってくるという強迫観念は、楳図かずおが恐怖漫画家としての地位を確立した“へび少女”シリーズの一編『ママがこわい』や女性にとっての若さと老いをテーマにした『洗礼』など楳図作品で度々描かれてきた。心の中で念じた想いが具象化するというモチーフも、『漂流教室』『わたしは真悟』『ねがい』など楳図ファンにはおなじみのもの。過去・現在・未来と時空を越えて愛憎劇が繰り広げられる展開は、珠玉のラブストーリー『イアラ』を彷彿させる。漫画から映画へと表現手段が変わっても、『マザー』は楳図作品であることに間違いない。楳図ワールドのエッセンスが上映時間83分の中にぎっしりと詰まっている。

 『マザー』を観て感じることは、子どもは親の素顔は何も知らないということだ。特に母親は子どもにとっていちばん近い存在であり、かつて子宮をくぐり抜けてこの世に生まれてきた子どもは母親のことは誰よりも熟知しているつもりでいる。でも、実は母親が子どもに見せているのは“母としての顔”であって、子どもは母親の“女としての顔”はほとんど知らない。月の裏側に何があるのかずっと謎だったように、母親も子どもには見せていないミステリアスな一面を持っている。いつも優しかった母・イチエの、女としての知らない顔を見ることになり、楳図は恐れおののくことになる。いちばん身近で、いちばんミステリアスな存在、それが母親/マザーなのだ。

 吉祥寺の楳図先生宅にお邪魔して、『マザー』についておうかがいする機会があった。楳図先生が60歳のときに母・市恵さんは亡くなられたそうだ。「母が亡くなった2日後に、ダイアナ妃が事故で亡くなったので、『これは大変!』と当時のことはすごく覚えています」と語る楳図先生。劇中で病床の母親は不可解な言葉を口にするが、実際もそうだったらしい。中でも楳図先生にとって忘れられない言葉となったのは、「いいこと、ひとつもなかった」という母親のひと言。これは実家を離れ、自分の仕事に打ち込んできた子どもにとっては相当に辛い台詞だろう。自分にできる親孝行は何か? じゃあ、田舎でひっそりと生涯を終えた母の人生をリブートしてみよう。楳図かずお流に盛りに盛った、母親のもうひとつの華やかな生涯。それが楳図かずお監督デビュー作『マザー』である。

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