年間8本ペースで撮り続ける天才監督かく語りき。「ホン読みコンテなし。現場で奇跡の瞬間を収める」
#映画 #インタビュー
──では、城定組は撮影初日が非常に重要ですね。
城定 かなり不安です(笑)。初日はキャストがどんな芝居をするのか様子見ですね。まずカメラの前で彼らがどんな芝居をするのかを見る。そのときは僕もホンは持たないようにしています。現場でまず芝居をやらせて、そのときに何か違和感を感じたときだけ修正するという感じですね。「何か違和感あるな」と思って、ホンを見直すと、やっぱり台詞が違ってたりするんです。でも、おかしい点がなければ、そのまま撮り進めていきます。自分で台本を書くことが多いので、だいたいの台詞は頭の中に入っているんですが、あまりに台本を見ないでいると大事な台詞を言い忘れたままでOK出してしまうことがありますね(苦笑)。撮り終わった後や編集段階で気づくこともあります。中には、シーンの後半部分を丸ごと撮り忘れていたこともあります(笑)。
──何とも豪快に撮り進められていく城定作品。でも、『いっツー THE MOVIE』でサガミがユイ先輩をモデルにカメラテストするシーンはとても繊細な名場面。サガミのカメラに向かって、ユイがはにかんだ笑顔を見せる瞬間に胸を打たれます。副島美咲って、こんなナチュラルな芝居ができるんだという驚きがありました。
城定 高校の屋上シーンですね。あのシーンは難しかった。日が沈む直前で、もう1カットで撮るしかないという状況だったんです。サガミが「恋人だと思って笑ってください」と頼んで、ユイが自然な笑顔を見せるという流れだったんですが、カメラに向かって自然に笑ってみせるのって難しいんです。僕も現場で「微妙だな」と思いつつも、日が沈んできたのでOKしてしまった。それで編集してみたんですが、悪くはないけど普通だなぁって感じで。どうしようなかと思ったんですが、僕が「OK」を出した瞬間に副島さんが照れ笑いを浮かべていた。「あっ、この表情はギリギリ使えるな」と思い、音を差し替えて、スローモーションにして使ったんです。だから、あの笑顔は実は演技ではないんです。完全に副島さんの素の表情だったんです。
■名画座に通っていた学生時代の思い出
──まさに城定監督ならではのミラクルショット! 『いっツーTHE MOVIE 2』ではいよいよゾンビ映画の撮影が始まり、面白さがますます加速。
城定 映画づくりのネタで押し切ろうかとも思ったんですが、『いっツー』の本筋はラブコメなんで、そこは外さないように思いとどまりました。ゾンビアイドルの小明さんがいてくれて、本当に助かった。ただの憧れの先輩への片想いだけならありがち過ぎですけど、小明さん演じるヨシコが加わったことでトライアングルな関係性ができて、ストーリーが膨らんでいきましたね。もう少し時間の余裕があれば、小明さんをもっと活かせたかもしれない。贅沢な使い方になりました。小明さんがゾンビになったら、どうなったんだろうなという興味がありましたね。
──そしてクライマックスは、エルヴィス・プレスリーのヒット曲「ラヴ・ミー・テンダー」が流れる中、ゾンビ役の男子生徒たちがそれぞれ想いを寄せる女子生徒に襲い掛かるという大カタルシスシーンに。いつもながら、城定監督は懐メロや童謡の使い方がうまい。
城定 権利の関係で「ラヴ・ミー・テンダー」は使えなかったので、あれは「ラヴ・ミー・テンダー」原曲である「オーラ・リー」なんです(笑)。もちろん「ラヴ・ミー・テンダー」を想起させる曲として使っています。曲を聴いただけで、そのシーンがどんな場面なのか、人物たちの心情が分かるような曲を選ぶということはよくやります。曲の力に助けてもらってますね。男子生徒が女子生徒に襲い掛かるあのシーンは、ちょっと間違えれば集団レイプシーンですから(笑)。
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事