金爆が“特典ゼロ”シングルでやろうとした本当の狙いとは? 歌謡ロック的サウンドから読み解く
#リアルサウンド
ゴールデンボンバー/ローラの傷だらけ
「ローラの傷だらけ」は、ヘヴィなギターリフから始まり、前のめりな高速ビートが疾走感をあおるアップテンポな「歌謡ロック」のナンバー。サビでは、タイトルのモチーフである西城秀樹「傷だらけのローラ」にも通じる、マイナー調の哀愁あふれるメロディが繰り出される。
つまり、この曲は、歌謡曲のDNAに、90年代のビジュアル系の王道、そして00年代以降のモダン・ヘヴィネスのテイストを融合させたナンバーと言える。彼らも得意とする路線で、代表曲の一つである「†ザ・V系っぽい曲†」に通じる位置付けの曲だ。
そして、そこから考えると、彼らが今回のニューシングルでやろうとしたことの本当の狙いを読み解くことができる。
「音楽“だけ”を売りたい」とインタビューなどで繰り返し語っていた鬼龍院翔だが、実はその言葉を額面通りに受け取るのならば、それは単に配信限定でリリースすればいいだけの話。そうではなく、むしろ「CDパッケージを取り巻く状況に一石を投じる」ことが今回の狙いと言っていいだろう。それによってセールスの数字が下がったとしても、そのこと自体がニュースになる。
そして、これらの状況が話題を呼ぶことが「音楽シーンのトリックスター」たるゴールデンボンバーのアイデンティティを改めて広く伝えるプロモーションとなっているわけだ。
「†ザ・V系っぽい曲†」という曲もまさにそういう意味合いを持った曲。王道V系のサウンドに乗せて「V系バンドあるある」を歌うという曲の内容は、自らの属するシーンを(愛情を持ちつつ)諧謔精神を持って外側からメタ的な視線で批評するという鬼龍院翔のスタンスを的確に示している。
鬼龍院翔にとっては、エアバンドというスタイルを選んだゴールデンボンバーのそもそもの成り立ちも、今回の「特典なしCD」をリリースしたという試みも、一つの共通する信念に基づくものなのだろう。それは、自らがトリックスターとして振る舞うことを通して「今の日本の消費社会においての“音楽”とは何か?」という問いを世の中に突きつけるということだ。そして、そういう批評性が内包された作品を「商品」として流通させるという意味で、ウォーホルのポップアートに近い精神性を感じたりもする。
とても興味深い。
■柴 那典
1976年神奈川県生まれ。ライター、編集者。音楽ジャーナリスト。出版社ロッキング・オンを経て独立。ブログ「日々の音色とことば:」/Twitter
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