庵野秀明、山賀博之ら有名クリエイターの裏話だけじゃない! ド直球青春ドラマ『アオイホノオ』
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そうやって、庵野たちの才能に傷つくモユル。だがここで、モユルに元来備わっている才能もあらわになっている。それは“嫉妬する才能”だ。ちゃんと嫉妬するには、相手の何が優れているのか見極めることが必要だ。モユルは、相手の作品の何がスゴいのかをハッキリと理解している。理解しているからこそ、自分との差が浮き彫りになり、打ちのめされるのだ。
だが、モユルの才能はそれだけではない。
「他人の作品を過大評価できるということは、俺の器がデカい証拠。つまり、まだ俺のほうが勝っている可能性大!」
「感動せん限り、俺の勝ちだぞ、庵野ぉーー!」
「確かにこいつらは、俺より“先”に行っているかもしれません。しかし、“上”には行ってないんですよ」
などと、ダメな現状をごまかす屁理屈と詭弁を駆使する才能だ。真骨頂は、東京へのマンガの持ち込みが失敗した時のエピソードだ。
「今回は辞退だ! クリエイターたるもの、納得できてない作品は世に出してはいかん!」「一流になる男は納得したものしか出さん!」
などと、トンデモ理屈で言い訳して課題の提出をも見送ったりもしていたモユル。だが、ついに一念発起してマンガを描き切り、友人と共に上京し、出版社に持ち込みをする。しかし、自信とは裏腹に、まったく手応えのない反応しか返ってこなかった。
「完全に東京に打ちのめされたんだ。まったく評価されないマンガを自分が描いていたなんて気づいていなかったし、気づきたくもなかった。持ち込みなんてしなきゃよかったんだ! 東京なんて来なきゃよかったんだ!」
と落ち込むモユルだが、大阪に帰ると一変する。持ち込んだ際、作品をコピーされたという一点だけを拠りどころにして「月間持ち込み大賞」に受賞しているはずだと、周囲に吹聴するのだ。
「俺ってすごいんじゃないか? 持ち込みが大失敗したことを悟られないために、脳みそをフル回転させてでまかせを言ってみたが……全然、でまかせじゃない!」
幾度となくどんなに打ちのめされても、たった一欠片の希望を信じ、何度でも奮い立っていく。
モユルは、どうしようもなく弱い人間だ。けれど、誰よりも熱い。その熱が、自分を強い人間だと自分自身に思い込ませている。ある意味で、それはモユルの持つ特別な才能だ。モユルは自分を“騙す”天才なのだ。その姿は滑稽で、コメディにしか見えないかもしれない。けれど、切ないほど真剣だ。だから笑いながらも、どこか胸の奥が痛くなる。
もちろん『アオイホノオ』は、80年代のサブカル史としても面白い。また、庵野をはじめとする有名クリエイターの裏話的な面白さもある。だが、何よりも、まだ何者でもないにもかかわらず、自分には特別な才能があると信じて疑わないモユルの挫折、葛藤、嫉妬、挑戦を描いた、ド直球の青春ドラマなのだ。
庵野は、前述の『ウルトラマン』パロディが大ウケし、アンコールが起きた時に悔しそうに言い放った。
「ウケようと思って作っているのではない! 感動させようと思ってるんだ!」
それはまさに、『アオイホノオ』という作品全体が発しているセリフではないだろうか?
(文=てれびのスキマ <http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/>)
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