園子温監督の“青の時代”はすでに終わった!?「僕には憎悪のエネルギーはもうありませんよ」
#映画 #インタビュー
──You Tubeオーディションを行なったことでも話題になりましたが、オーディションで集まったキャストたちはどうでした?
園 役者もさることながら、役者でも何でもないラッパーたちが頑張ってくれましたね。最初は「どうなってもいいや」と思ってたんですよ(笑)。僕は大島渚監督の映画が好きなんですが、大島監督の『新宿泥棒日記』(69)には当時の紀伊国屋書店の社長(田辺茂一)がけっこー大事な役で出ているんですよ。芝居はうまくない(笑)。でも、それでいいんだと思えたんですね。大島監督の言葉ですが「映画は役者のドキュメンタリーだ」と。『TOKYO TRIBE』もそのつもりで撮ったんです。それがね、YOUNG DAISは意外と芝居うまいし、他のラッパーたちも一生懸命にやってる。彼ら本物の不良は我慢強いんですよ。出待ちで長い時間待たされていると、役者でもイライラするのに、彼らは落ち着いて待っていてくれましたしね。「キレたりしない」と言ってました。「そんな子どもっぽいことはしない」と。チンピラまがいの役者とは全然違いましたね。
■いつ映画をやめるときが来てもいい覚悟がある
──園監督は2000年にサンフランシスコ留学を終え、ゼロ年代に『自殺サークル』で商業路線に転じたわけですが、『愛のむきだし』でブレイクするまでに7年の歳月を要しましたね。
園 本当、長かった。『愛のむきだし』の前に撮った『紀子の食卓』(06)も無視されたしね。
──『紀子の食卓』は吉高由里子のデビュー作。レンタル家族を題材にした素晴しい作品でした。
園 『愛のむきだし』が話題になったのも、劇場公開後にビデオレンタル化されてからですよ。まぁ、『愛のむきだし』が評価されたんで『冷たい熱帯魚』を撮ることに繋がったんですけどね。40歳代後半になって、ようやくメシがちょっとだけ喰えるようになった。ちょっとだけ(苦笑)。今、52歳でそこそこ喰えるようになった。ここ1〜2年でたらふく喰えるようになりたいですよ。そうじゃないと、不公平じゃないですか(笑)。
──ブレイク作である『愛のむきだし』『冷たい熱帯魚』、それに『恋の罪』(11)にはそれこそ地下マグマのような熱いドロドロしたエネルギーが篭っているように感じました。でも、ここ数年でずいぶん変わりましたよね。今や超売れっ子になった園監督は、その点はどう感じていますか?
園 うん、そういった憎悪のエネルギーはもうないですよ。でも、僕はそれでいいと思っているんです。僕はピカソも好きなんだけど、ピカソが貧乏時代に描いていた「青の時代」ってあるじゃないですか。さすがに「キュビズムの時代」になってお金持ちになったピカソに、「青の時代」みたいな絵を描けといっても描けないですよ。めっちゃ売れっ子になって、貧乏時代の絵を描き続けるのはおかしいですよ。ピカソってはっきり時代が分かれて、どんどん進化していくじゃないですか。だから、今回の『TOKYO TRIBE』も、これは僕にとっての前進なんです。
──具体的に作品名を挙げると、『ヒミズ』での希望を感じさせるラストシーンから、園作品は変わってきたように感じます。憎悪のエネルギーが浄化されていったような……。
園 いや、明確に変わったのは『希望の国』(12)を撮り終わってからですね。『希望の国』を被災地で上映して、被災地の人たちに観てもらい、「ありがとう」と喜んでもらえたんですが、その喜びは純粋な喜びではなく、悲しみなわけです。見終わった後、被災地の人たちは涙を流しているんです。「あはは、楽しかったね」じゃないんですよ。僕はそのときに彼らが何も考えずに心から楽しめるような映画を撮ろうと考え、完全なエンタメを撮るようになったんです。それが『地獄でなぜ悪い』(13)であり、今回の『TOKYO TRIBE』なんです。最近、ダビングが終わったばかりの『ラブ&ピース』(2015年公開予定)は完膚無きまでのエンタメに仕上がってます。観た人、みんなほっこりする映画です。サザエさん一家がみんなで観てもいい映画が、初めてできたんです(笑)。
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