あの「四谷怪談」が現代ホラーに! 市川海老蔵×柴咲コウ×三池崇史『喰女 クイメ』
#映画 #柴咲コウ #三池崇史 #市川海老蔵
今週取り上げる最新映画は、古典の怪談と現代のホラーを巧みに接続した意欲作と、最先端のVFXで巨大竜巻を体感させてくれるディザスタームービー。ゾクゾクくるスリルと間近に迫る恐怖で、ほどよく身も心も冷やしてくれる残暑向きの2作品だ。
『喰女 クイメ』(8月23日公開)は、歌舞伎狂言「東海道四谷怪談」をモチーフに、歌舞伎俳優の市川海老蔵による企画・主演、三池崇史監督で描くサスペンスホラー。俳優の浩介(市川)は、恋人のスター女優・美雪(柴咲コウ)の推薦により舞台「真四谷怪談」の主役・伊右衛門役に抜擢され、お岩役の美雪と共演することになる。だが、若い共演女優(中西美帆)との浮気を繰り返す浩介に、美雪の精神状態は不安定になり、やがて2人の愛憎と確執は舞台と現実との境界を超えていく。
日本の代表的な怪談としてよく知られたお岩と伊右衛門の悲しくも恐ろしい物語を、それぞれを演じる美雪と浩介の私生活での関係に重ね合わせることで、四谷怪談のエッセンスが現代の恋愛関係にも通じる普遍性と魔力を持つことを見事に証明してみせた。柴咲の鬼気迫る演技と特殊メイクによる無惨な面相が圧巻。舞台のリハーサルが進行するスタジオと、マンションの室内で9割方ストーリーが進行するため、重苦しい閉塞感が全編に漂ってサスペンスを高めている。男女の不和が生む根源的な恐怖を、古今のホラー映画の記憶も取り込みながら表現した本作は、三池監督らしい独創性と過激な描写を楽しめる一本だ。
『イントゥ・ザ・ストーム』(公開中)は、観測目的で巨大竜巻を追う研究者たちと、脅威に直面する人々の姿を描いたディザスター映画。ドキュメンタリー映像スタッフと気象学者が組んだ竜巻ハンターの一行は、最先端の観測機器と複数のカメラを装備した車で捜索の末、桁外れに巨大な竜巻が発生することを察知し、アメリカ中西部の小さな町シルバートンに向かう。その日、地元の高校では卒業式が行われており、教師と生徒らが校庭で集まっている最中に天候が急速に悪化。さらに発生した複数の竜巻が合体して、直径3200メートル、秒速135メートルという未曾有のメガ竜巻がシルバートンを直撃する。
スター俳優を一切使わない代わりに、予算の大部分を竜巻のVFXと屋外セットに投じたのであろう驚異の映像が最大の見どころ。車や家はもちろん、果ては空港の旅客機までも空に巻き上げるモンスター竜巻に度肝を抜かれる。瓦礫や崩れた家屋、吹き飛ばされた車など、被災後の荒れ果てた街並みのリアルさもあ然とするほど。一部のシーンは、実際にハリケーン被害の地域で撮影したのでは? と思わせるくらい、スケールも状況も圧倒的だ。本作の工夫は、ドキュメンタリースタッフの手持ちカメラに加え、車載カメラ、高校生が回すビデオカメラ、携帯電話のカメラなど複数名によって撮影された一人称視点映像を組み合わせて、モキュメンタリー(疑似ドキュメンタリー)風に仕上げたこと。この仕掛けがあることで、観客はまさにストームへ「イントゥ」する(中に入る)瞬間を臨場感いっぱいに体験できる。映画館のスクリーンで見るにふさわしい、スリリングなディザスター映像に大興奮の快作だ。
(文=映画.com編集スタッフ・高森郁哉)
『喰女 クイメ』作品情報
<http://eiga.com/movie/78691/>
『イントゥ・ザ・ストーム』作品情報
<http://eiga.com/movie/78096/>
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