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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.284

身に覚えのある男はスクリーンを直視できない!? “虚構”が“現実”を侵蝕する恐怖ドラマ『喰女』

kuime_movie02.jpg美雪(柴咲コウ)と浩介(市川海老蔵)は舞台『真四谷怪談』で共演することに。役づくりにのめり込み、どこまでが芝居か現実か分からなくなっていく。

 舞台稽古が始まって間もなく、浩介は『真四谷怪談』でお梅役を演じる若手女優・莉緒(中西美帆)との火遊びに興じる。莉緒が演じるお梅は、伊右衛門に横恋慕してお岩から奪ってしまう裕福な武家の子女役。浩介と莉緒は役づくりを兼ねてベッドを共にする。浩介の後先考えない役者バカぶりは、観客の目には否応なく現代のカブキもの・市川海老蔵のキャラクターと重なって映る。浩介の帰りを待ちながら夕食の準備をする美雪が、次第にお岩役に入っていく姿にゾッとさせられる。柴咲も大人の女の情念をじっとり演じられた今回の美雪/お岩の2役に、今までにない手応えを感じているようだ。出世作『バトル・ロワイアル』(00)での“世界でいちばん鎌の似合う女”相馬光子以来といえる強烈キャラクターを嬉々として演じていることが、スクリーン越しに伝わってくる。『喰女』は単なる劇中劇ではなく、市川海老蔵や柴咲コウの素の部分も透けて見える、いわば三重構造の劇中劇なのだ。『IZO』(04)でフィクションとリアルの壁をブチ壊した、三池監督らしい型破りな世界ではないか。

 市川海老蔵の飲み仲間である伊藤英明が伊右衛門と悪巧みを働く宅悦役で出演しているのも、虚構と現実との境界をより曖昧なものにしている。映画では美雪の付き人・加代子(マイコ)が思わせぶりな言動で気を惹くが、原作小説『誰にもあげない』を読むと、付き人として美雪の交際相手のことも知っておくべきと、浩介と肉体関係まで経験していることが明かされている。美雪、莉緒だけでなく、加代子もまた女の怖さをまざまざと感じさせるキャラクターなのだ。

 同じ舞台で共演することになった俳優たちの虚々実々なやりとりが繰り広げられる『喰女』だが、男と女が同じ家で一緒に暮らすということにもある種の演技が伴うだろう。男はその場しのぎの噓をつき、女はその噓を見破りながらも笑って受け止める。『喰女』にはフィクションとは思えない、リアルな怖さが漂う。普段はどんなに温厚な女性でも、一度怒りの炎が燃え上がると最凶鬼女に変身することを男は知っているからだ。

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