身に覚えのある男はスクリーンを直視できない!? “虚構”が“現実”を侵蝕する恐怖ドラマ『喰女』
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男には誰しも浮気願望がある。大恋愛の末に結ばれた恋人や奥さんがいても、素肌がまぶしい若い女の子についつい目移りしてしまう。行動に移すかどうかは別にして、浮気心を抑え込むのは非常に難しい。そんな男たちが胸の奥に隠し持っているやましさ、後ろめたさを、ひんやりと鷲掴みするのが三池崇史監督の『喰女−クイメ−』だ。古典的実録ホラー『四谷怪談』をベースにした『喰女』はあまりに恐ろしく、心に思い当たる節のある男性はスクリーンを直視できないだろう。『喰女』で描かれる恐怖は超常現象的なものではなく、女性が持つ情の深さ、嫉妬心、独占欲の恐ろしさなのだ。
『喰女』の面白さ(=怖さ)は、劇中劇という構造によって江戸時代後期に歌舞伎の演目として誕生した『四谷怪談』を現代に甦らせたことにある。日本のメジャー映画でここまで大々的に劇中劇を取り入れたのは、薬師丸ひろ子主演作『Wの悲劇』(84)以来ではないか。どこまでが芝居で、どこからが現実なのか分からない、怪しい迷宮世界となっている。客席で観ていた観客もいつしか作品の中に迷い込んでしまう。虚構であるはずの世界に現実が呑み込まれていく怖さに、思わず客席の腕掛けを握り締めてしまう。
『喰女』の主人公は、テレビや映画に引っ張りだこの人気女優・美雪(柴咲コウ)と美雪と同棲中の男優・浩介(市川海老蔵)の2人。浩介は二世俳優で、生まれついての才能は持っているものの、「女遊びは芸の肥やし」とばかりに朝帰りを続け、役者としては大成できずにいる。美雪との肉体関係がズルズルと続いているが、入籍しようという気配もない。そんな煮え切らない状況に白黒つけるべく、美雪は初めて挑む舞台『真四谷怪談』の共演相手に浩介を指名する。実生活で同棲中の女優と男優が、舞台でお岩と伊右衛門の夫婦を演じるというデンジャラスな配役だ。この時点で、美雪という女性はかなりの危険人物であることが分かる。浩介は度胸があるのか、何も考えていないのか、平然とこの挑戦を受けて立つ。かくして、どこまでが役づくりなのか、それとも本人の本音なのか判別できない、ドロドロの舞台の稽古が始まる。ショー・マスト・ゴー・オン。舞台と恋は最後の幕が降りるまで、途中でやめることは許されない。
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