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日刊サイゾー トップ > カルチャー > 本・マンガ  > 「誘拐結婚」はキルギスの慣習?

女性を誘拐し、結婚する――キルギスの衝撃的な慣習を追った写真集『キルギスの誘拐結婚』

41kGJu9xoLL.jpg(日経ナショナル ジオグラフィック社)

 「誘拐結婚」という言葉を聞いたことがあるだろうか? キルギス語で「アラ・カチュー」=「奪って去る」を意味し、仲間を連れた若い男が、嫌がる女性を自宅に連れていき、一族総出で説得し、無理やり結婚させる、という中央アジアのキルギスで古くから続く、“慣習” だ。違法とされているにもかかわらず、現状、警察や裁判官も単なる「親族間のもめごと」と見なされ、犯罪として扱われることはほとんどない―――。

 『キルギスの誘拐結婚』(日経ナショナル ジオグラフィック社)は、その実態を探るべく、世界を舞台に活躍する気鋭のフォトジャーナリストの林典子さんが、2012年7月から約5カ月間、現地に滞在し、女性ならではの目線で切り取った写真集である。滞在中、林さんは、実際に誘拐結婚の現場に数回遭遇。女性が誘拐され、泣き叫んで抵抗するも、数時間後には結婚を受け入れてしまうまでの一部始終を、写真で生々しく記録している。どの写真も絶句するほど衝撃的な写真ばかりだが、とりわけ驚かされたのは、当時大学生だったディナラ(22歳)という女性を追った一連の写真だ。

 彼女は、高校教師であるアフマット(23歳)に市場でひと目惚れされ、2回目に会った時にプロポーズを受ける。だが、当時2年ほど付き合っていた彼氏がいた上、1年後にトルコへ行って就職するつもりだったので、「お互いを知るまで1年待ってから考えたい」とやんわり断った。ところが、ある日、誘拐されたのだ。

「お願いだから車を止めて! ドライブに誘い出しておいて、私を誘拐するなんて。ウソをついたのね、最低な男!」

 この現場に林さんも居合わせ、彼女はシャッターをひたすら切り続ける。相手の家に連れて行かれ、花嫁の象徴である白いスカーフを無理やりかぶせ、結婚するよう説得する高齢の女性たち、スカーフを外そうと泣き叫ぶディナラ、ディナラとアフマットの結婚を祝おうと馬に乗って駆けつけるアフマットの友人たち……。

「やめてください。あの人のことなんか、愛していないんだから!」
「アフマット、私が結論を出す前に、結婚式の準備を始めてるの? そんなことは時間の無駄よ。恥ずかしいと思わないの?」

 けれど、5時間後、彼女は結婚を受け入れていた。その理由はこうだ。

「アフマットのことはよく知らなかった。でも、誘拐結婚はキルギスの伝統だから、受け入れたの」

 日本の半分ほどの国土に、約540万人が暮らす中央アジア・キルギスの最大民族は、キルギス人。彼らの多くは、スンナ派のイスラム教を信仰している。この国では、一旦、男性の家に入ってしまうと、たとえ拒否し続けて実家に帰ったとしても、「純血を失った」と見なされ、家族に恥をかかせてしまうこともあるという。

 正直なところ、「恥」という理由で、結婚を拒否できないという事実をまったく理解できない。訳がわからない分、一体、彼女たちが何を考えているのだろうと、写真に映る彼女たちを何度も凝視してしまう。すべてのページに目を通した時、衝撃とともにやっぱりよくわからない、という思いが残る。けれど、再びページをめくった時は少し印象が変わる。この写真集から伝わってくるのは、「誘拐結婚」ってダメだよねということよりも、むしろキルギスの女性たちが力強く、生きる姿だ。

 林さんは、最初の取材から1年4カ月後、ディナラから出産すると聞いて再訪する。そこには、嘆くばかりではなく、子どもを宿し、ロシア語教師という新たな仕事を見つけ、幸せになるんだと意気込みさえ感じさせる、ディナラの姿があった。

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