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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.283

寂れゆく町に現われた男は救世主か悪魔なのか? 新エネルギー開発に揺れる『プロミスト・ランド』

promised-land02.jpg優秀な営業成績を誇るスティーブ(マット・デイモン)。上司たちから「君は我が社の幹部候補だ」と煽てられ、やる気まんまん。

 どこにでもある平凡な田舎町・マッキンリーも、スティーブたちにとっては簡単に片付くはずの町だった。町の有力者への根回しを済ませ、あとは町民集会で形式的な説明を行なえば一件落着だった。ところが、地元高校の老教師フランク(ハル・ホルブルック)が異議を唱える。シェールガスはCO2の排出量が比較的少ない。また、米国だけでも150年分の埋蔵量があることから、石油利権を求めて中東に軍事介入しなくても済むなどのメリットがある。だが、シェールガスが眠る地層にまで亀裂を入れる“水圧破砕法”は大量の水を使い、そして破砕が要因となって水や空気を汚してしまう。さらに破砕の際に様々な化学薬品を投入することから、土地が汚染される。新エネルギーの開発にはすべからく弊害が生じるという事実から目をそらしてはいけない。そのことを念頭に置いて、もう一度考え直すべきではないのかとフランクを主張する。

 お金か? それとも環境保護か? スティーブは少数派である反対グループを懐柔できると踏んで、3週間後に住民投票を行なうことでその場を収めた。この騒ぎを聞きつけ、環境活動家のダスティン(ジョン・クラシンスキー)が現われる。ダスティンはスティーブを上回る口の達者さとグローバル社に対する巧みなネガティブキャンペーンで、たちまち町の人たちの心をつかんでいく。どうやらスティーブは各地で環境保護運動を起こすことで食べている“プロの活動家”らしい。町を大企業の毒牙から守る守護天使のように見せているが、彼はそんなクリーンな存在ではない。小さな町でメフィストとメフィストが対峙し合うことになる。この2人は、町の小学校に務める女教員アリス(ローズマリー・デウィット)をめぐっても恋の火花を散らすことになる。

 新エネルギーの開発に沸く田舎町を舞台にした本作を観ていて、思い浮かべるのは田原総一朗が1976年に発表したノンフィクション小説『原子力戦争』(ちくま文庫)だ。『原子力戦争』では原発建設予定地に莫大なお金がバラまかれる内情が赤裸々に描かれていた。それまでお金がなくても慎ましく生活することができた田舎で暮らす人たちに、都会からやって来た原発推進派はまずお金の味を覚えさせることから始める。昔ながらの人付き合いが残る田舎のコミュニティーをお金の力で根こそぎ壊してしまえば、原発建設は一気に進む。スティーブが勤めるグローバル社のやり方と『原子力戦争』で描かれた原発誘致の内情はとてもよく似ている。田原総一朗は「原子力発電は海の水や空気を汚す以上に、住民たち自身を腐食させている」と書き記した。新エネルギーを開発するということはその土地の景観を変えてしまうだけでなく、その土地で暮らす人々の生活や心まで丸ごと変えてしまうことに繋がるのだ。

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