寂れゆく町に現われた男は救世主か悪魔なのか? 新エネルギー開発に揺れる『プロミスト・ランド』
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田舎育ちの純朴な青年を演じることの多かったマット・デイモンだが、彼自身が脚本を書いた『プロミスト・ランド』では現代のメフィストを演じる。とても誠実で爽やかなナイスガイなので、彼がメフィストであることをみんなコロッと忘れてすんなり大事な魂を売り渡してしまう。本人すら自分がメフィストであることに気づいておらず、各家庭に福音を届けて回っているつもりでいる。でも、彼が立ち去った後の町は、人が住めない荒野と化してしまう。そんなメフィストがもう一人のメフィストと遭遇することで、ようやく自分が今までやってきたことに気がつく。悩めるメフィスト、それが今回のマット・デイモンの役どころだ。
マット・デイモンが製作・主演・脚本を兼ねた本作は、出世作『グッドウィル・ハンティング/旅立ち』(97年)で組んだガス・ヴァン・サント監督との久々のタッグ作。石油を遥かに上回る埋蔵量があるとされる新エネルギー“シェールガス”の開発に一喜一憂する人々の物語となっている。マット・デイモンとの共同脚本を手掛けた若手俳優ジョン・クラシンスキーが、もう一人のメフィストを演じている。
スティーブ(マット・デイモン)は大手エネルギー会社「グローバル社」に勤め、もっぱら米国内陸部の田舎町を訪ね回っている。シェールガスが埋蔵される土地の所有者に会い、掘削権を借り上げるのが彼の役割。田舎町に着いたスティーブは高級スーツを脱ぎ、安物のネルシャツとジーンズに着替える。ブーツはおじいちゃんが使っていた年代ものだ。訪問宅へは古ぼけたレンタカーで赴く。相棒役のスー(フランシス・マクドーマンド)も田舎町がよく似合う、地味めな中年女性。子育てに頭を悩ませる主婦たちのよき相談相手となっている。2人には大企業のエリートサラリーマンにありがちな上から目線な態度も慇懃無礼さもなく、「この人たちなら信頼できそう」と好感を持ってどの田舎町から迎え入れられる。スティーブとスーのチームは、グローバル社の他のチームより契約件数が断然に多い。
抜群の営業成績を誇るスティーブの強みは、彼自身がアイダホ州の農家の生まれで、産業のない田舎で暮らす人たちの今後のことを親身になって憂いているという点にある。このまま過疎化が進めば、小さな町の未来はお先真っ暗。でも、シェールガスの開発が進めば、町は人とお金で潤うではないか。グローバル社と契約さえ結べば、もう家や車のローンに追い立てられることも、子どもを進学させるかどうか悩む必要もない。あくせく働かずとも、毎月数百万円ものお金が振り込まれることになる。町の人たちは一生遊んで暮らせる大金を手に入れ、スティーブは会社の幹部への昇格に近づく。どちらにとってもウィンウィンな美味しい契約ではないか。
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