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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.282

他人の不幸は蜜の味? 大富豪ファミリーの転落記 目撃ドキュンUSA『クイーン・オブ・ベルサイユ』

qov02.jpg現代のベルサイユ宮殿を自慢げに案内するジャッキー・シーゲル。新しい自宅が米国最大になることに、子どもたちはさほど興味がない。

 本作の監督ローレン・グリーンフィールドは、「富と消費」をテーマにした写真を撮り続けている人気女性カメラマン。シーゲル夫妻が米国最大の家を建てることを知り、現代におけるアメリカンドリームの象徴としてベルサイユが完成する様子をドキュメンタリーとして追い掛け始めた。完成に近づくベルサイユの内部を案内するジャッキーは自慢げに胸を張る。今にもシャツのボタンが弾けそうなほどに。そんな妻の様子を見て、デヴィッドもご機嫌だ。絵に描いたような金満ファミリー。ところが……。ドキュメンタリーの面白さは、シナリオにはない予想外のハプニングに被写体たちがどのようなリアクションを見せるかに尽きるだろう。宮殿が6割完成した2008年秋、リーマンショックがシーゲル家も呑み込んだ。1800億円の純資産を持つ米国きっての大富豪だったデヴィッドは、わずか数週間で負債1200億円を抱え込む転落人生を歩むことに。そして、本作はここから俄然、えも言えぬ旨味が生じてくるのだ。

 19人いた使用人は3人に減らされてしまい、屋敷の中は荒れ放題。もともと躾のされていなかったペットの犬たちによって、家の中はウンチだらけになってしまう。犬のウンチを片付けていた家政婦たちがいなくなったからだ。たちまち大豪邸はゴミ屋敷ならぬウンチ屋敷に。デヴィッドが金策に走り回っている間、ジャッキーは子どもたちを連れて、久々に里帰りを果たす。それまで自家用機にしか乗ったことがないので、子どもたちは飛行機の客席に見知らぬ人たちがいることに驚き、すっかり贅沢三昧に慣れ切っていたジャッキーはレンタカーを借りる際に「運転手の名前は? えっ、レンタカーには運転手は付いてないの?」とトンチンカンなやりとりを繰り広げる。大富豪ならではのドキュンぶりが笑いを呼ぶ。

 デヴィッドはバツ2、ジャッキーはバツイチで出会って結婚に至ったわけだが、この2人には共通項がある。常人ばなれした貪欲さの持ち主だということだ。デヴィッドはラスベガスにも巨大な自社ビル・ラスベガスタワーを建て、さらに家族のためにベルサイユ宮殿を造り始めた。目に見える形で自分の欲望や愛情を形にしようとする。ジャッキーはお買い物中毒だ。夫が借金返済に走り回っているのに、「子どもやペットの喜ぶ顔が見たいの」とカートに乗り切れないほどのオモチャやペット用品をついつい買い込んでしまう。シーゲル夫妻に象徴される貪欲さこそが、米国の経済社会を肥大化させてきた原動力だったのだろう。

 ドキュメンタリーの後半、未完成のベルサイユを売り出すことが決まってから、夫婦の表情にくっきり違いが生じ始めるのも興味深い。「困ったときほど家族の繋がりが大切よ」とジャッキーは明るくホームパーティーを開くが、かつてはミス・アメリカたちを呼び放題だったデヴィッドは意気消沈。鬱気味になって、自分の部屋に篭りっきりになってしまう。完成した本作に対しても、2人は対称的な反応を示した。ジャッキーはサンダンス映画祭などのプレミア上映に参加してPRに協力したのに対し、デヴィッドは名誉毀損として裁判所に訴えたのだ。この件に関してローレン監督は以下のようにコメントしている。

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