People In The Box波多野が追求する表現とは?「バンドというよりも音楽が主体になってきた」
「『音楽とはどういうものなのか』を考えることがすごく増えた」
――なるほど。では、この『Wall, Window』というアルバムは、People In The Boxのキャリアの中でどういうものを意図して作っていったんでしょう?
波多野:それがねえ、わからないんですよ(笑)。
――わからない(笑)。
波多野:作り終えても、これがどういうものなのか、全然わからなかったですね。というのも、今までは、作りながら無意識で「聴いた人がどういう反応をするだろう」という予想をしてたんですね。それが制作内容に影響するかどうかは別として。どう聴かれたいかという気持ちもあった。でも、今回のアルバムではそういうものがまったくない。客観的視点っていうのが完全に欠けてるアルバムなんです。
――前作の『Weather Report』の時は客観的な視点はあった?
波多野:ありましたありました。
――あれはアルバム全体70分以上が1曲になっている作品でしたよね。それも、どういう風に聴かれるのかを意識したもの?
波多野:わかってました。でも、あれはもっとキャッチーに捉えられると思ったんですけど(笑)。
――なるほど。僕はPeople In The Boxというバンドを初期からずっと知っているんですけれど、最近、すごく思うことがあるんですよ。ここ最近は間違いなく、どんどんタガの外れたバンドになってきている。
波多野:はははは!(笑)。
――非常に楽しそうにラジカルなことをやっていると思うんですけれども。これ、やっている本人としても実感するところではあるんでしょうか?
波多野:タガが外れてる感は、自分たち自身にもありますね。いろんなことに執着しなくなったのが大きいかな。「People In The Boxはこうあるべき」とか、そういうところがどんどん希薄になっていってますね。バンドというよりも音楽が主体になってきたというか。「音楽とはどういうものなのか」を考えることがすごく増えてきて。その結果、変わってきたんだと思います。
――どういうことを考えたんでしょうか。
波多野:それはもう、本当に根源的に、「音楽ってなんだろう?」とか「バンドと音楽ってどういう関係だろう?」とか、「自分にとって、メンバーにとって音楽ってなんだろう?」とか、そういうことばかり考えてました。それはつまり、自分の生活を考えるということとイコールだったんです。
――生活とイコールだった?
波多野:そもそも、今回、実はアルバムを作るスケジュールを立ててなかったんですよ。ただ単に、僕が作った曲があるからレコーディングさせてくれないかっていうところから制作が始まった。というのも、音楽って本当は「作る」ものじゃなくて「できる」ものなんじゃないかっていう気持ちがあったんです。
――なるほど。アルバムをリリースするとか、締め切りがあるとかそういうことではなく、音楽は日々生まれてくるんじゃないか、と。
波多野:そうそう。そういうことをずっと考えてたんですよね。「音楽活動」ってよく言うけれど、「活動」ってそもそも何だろう?っていうことですよね。ライヴをしました、レコーディングをしました、ツアーをしました、プロモーションをしました。でも、それは音楽そのものとは関係のないことで。たとえばお母さんが子どもを寝かしつける時に歌ってあげる歌とか、そういうものが僕にとっての本当の音楽だと思うんです。
――なるほどね。言ってみれば、お母さんが家族のためにご飯を作るのを「料理」と言うならば、「料理活動」って一体何なんだって話だ。
波多野:そうそう、まさにそうです(笑)。本当は当たり前にそこにあるはずなのに、何か取ってつけたような理由を後付けして、リリースしたりライブをしたりしている。そこで忘れているものがたくさんあるんじゃないか、と思って。それで「休みをくれ」と言ったんです。
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