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テレビウォッチャー・てれびのスキマの「テレビ裏ガイド」第62回

ホームレス、地元を愛するヤンキー、Tバック男……『ドキュメント72時間』が切り取る人生の一瞬

 たとえば「オン・ザ・ロード 国道16号の“幸福論”」と題された回(2014年6月13日放送)。横須賀~町田~八王子~春日部~千葉と、「郊外」を結ぶ約250キロの道を3日間かけて移動しながら、そこに行き交う人を映すというものである。

 この回は、あのマツコ・デラックスも注目。「郊外」の魅力を『怒り新党』(テレビ朝日系)で語っていたマツコは「他局だけど…」と断りながら、この放送が楽しみだと熱弁していた。

「春日部のヤツが『オレ、地元好きですから!』って言ってるのが番宣で使われてて、もう(予約)録画してきちゃった(笑)」

 その春日部の若者は17歳。同級生の彼女と共に国道沿いのバッティングセンターを訪れていた。デートはいつも地元。土木関係の仕事に就く彼は、彼女が高校を卒業したら一緒に暮らすつもりだという。夢は春日部に家を建てること。

「あんまり離れたくないです、春日部を」

 大型ショッピングモールやチェーン店ばかり続く国道16号沿いの街並みは今、「現代日本を象徴する風景」として注目を浴びているという。そこでスタッフは、16号で出会った人たちに「幸せですか?」と尋ねるのだった。

 工場勤務の男性、福山雅治のツアー荷物を運ぶトラック運転手、ショッピングモールで遊ぶ中学生……。多くの人たちがさまざまな不満や葛藤を抱えながらも「幸せ」だと答える。夜明け前の国道沿いには、黙々とウォーキングに励む人たちが多い。

 そんな中で、犬を散歩させている男性がいた。

「かわいそうだから俺が飼ってあげたの」と話すその男は、ホームレスだという。「これがいなけりゃ、アパート借りれるんだけど」と笑い、仕事に行く準備を始める男性。「人生気ままがいいんだよ」と言いながら。

 ホームレスから地元を愛するヤンキー、そしてTバックで堂々と海岸を歩く男……。72時間の密着で、さまざまな人の人生を映し出す。それは人生の中では一瞬でしかないのかもしれない。けれど、切り取られた一瞬だからこそ、如実に“その人”を表している。その一瞬の人間模様が連なった72時間は、今の日本や日本人を鮮明に浮き彫りにしているのだ。

 「湘南の海」の回では道に迷った末、海岸で海を眺めながら休んでいるエステ店に勤める40代の女性がいた。「私、ストレスたまらないんです」と、彼女は言う。けれど、20代の頃は、仕事や結婚生活など「生きるのがストレスだった」という。

 スタッフに「20代の頃、この近くを通ったら、この海岸に来ていましたか?」と尋ねられた彼女は「いや、降りないと思う」と答えた。

「海があるのが気づかないと思う。自分の中だけに入ってて、周りを見なかったから」

 この番組を見ていると、さまざまな一瞬の人間模様を通して「誰とも違う」ことを実感できる。だから、感じることのできる共感と発見がある。誰もがみんなと違う人生を歩んでいるという一点において、みんな同じだ。そして自分と同じように、他者の人生にリアリティを感じることができる。

 『ドキュメント72時間』は、そこに「海がある」ことを気づかせてくれるドキュメントなのだ。
(文=てれびのスキマ <http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/>)

「テレビ裏ガイド」過去記事はこちらから

最終更新:2019/11/29 17:56
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