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ノンフィクション作家・高野秀行氏と角幡唯介氏が「探検」について語り尽くす!『地図のない場所で眠りたい』

51cMl-llM8L.jpg『地図のない場所で眠りたい』(講談社)

 「早稲田大学探検部」出身で先輩と後輩である、ノンフィクション作家・高野秀行氏と角幡唯介氏が、平成25年度の第35回講談社ノンフィクション賞を同時受賞! それを記念し、二人の十数時間におよぶ対談集『地図のない場所で眠りたい』(講談社)が刊行された。


 高野氏といえば、大学時代に『幻獣ムベンベを追え』(集英社文庫)でデビューして以来、辺境の地で、野人や雪男やらの未知生物を追いかけたり、反政府ゲリラと共にミャンマーのワ州でアヘン栽培に従事するなど、自身の体験を面白おかしく文章でつづる、この筋ではかなりの有名人。熱烈なファンが多いが、私もそんなひとりであり、当サイト内でも、今回受賞作の『謎の独立国家ソマリランド』(本の雑誌社/https://www.cyzo.com/2013/04/post_13006.html)や『未来国家ブータン』(集英社文庫/https://www.cyzo.com/2012/04/post_10450.html)を紹介した。

 一方、角幡氏は命がけの冒険を行い、それが自分にとってどういう行為であるか、自分の内面と真剣に対峙し、緻密で周到な文章で読者をグイグイと引っ張っていく作家。受賞作『アグルーカの行方』(集英社)では、約160年前に英国のフランクリン探検隊129人全員が行方を絶った地図なきルート1600kmを徒歩行することで、彼らが完成させることができなかった報告書を作ろうと試みた。それと同時に、北極でかつてもがき苦しんだ人々が集団で流浪する姿も伝えようとしている。

 今回、二人が「早稲田大学探検部」出身の先輩と後輩ということで話題を集めているが、実は、高野氏と角幡氏は10歳離れているため、現役時代の接点はない。角幡氏にとって高野氏は、学生の時にムベンベ隊を率いてコンゴの密林を探検した憧れの人であり、その時にゴリラを食べたらしいという話から、大学卒業後も三畳一間の部屋に居座り続け、窮乏に耐え忍び、ツナ缶を食べながら足しげく辺境に通っているという、伝説の人物であった。高野氏も、中国のものすごい沢を30kg以上の荷物を背負って何週間も歩いたり、体力、気力が常人離れしたすごいやつがいる、という角幡氏のうわさは聞いていた。

 本書では、そんな二人が、そもそもなぜ探検家になろうと思ったのか、早稲田大学探検部ではどんな活動をしていたのか、どうやって作家になったのか、それぞれの人生設計、お互いの作品についての感想、テーマの探し方や取材方法など、探検・冒険に関するありとあらゆる話を語りつくしている。

 探検部時代、先輩が計画した、2999メートルの剱岳の標高をセメントで盛って3000メートルにしようとする「剱岳3000メートル化計画」に惹かれ、角幡氏は自信満々で部会に計画書を提出したものの「こんなの無理に決まっているだろ!」と却下された話や、高野氏が「20代後半は中国とかタイで取材めいたこともいろいろしているんだけど、書けなかったんだよ。なにかはやっているんだけど、それがいったいなにになるのかは自分の中でわからない状態で、そのころはすごく苦しいというか、途方に暮れてたって感じ」と、なかなか本が売れず、苦しい時期があったことなど、笑い話からディープな話まで、非常に興味深い対談集に仕上がっている。

 大人になるにつれ、忘れてしまった“男のロマン”とも言うべき、探検や冒険。それを今でも続けている二人の話は、男性はもちろん、未知のモノや旅好き女子にも、心に突き刺さるハズだ。
(文=上浦未来)

●たかの・ひでゆき
1966年、東京都八王子市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。同大探検部在籍時に執筆した『幻獣ムベンベを追え』(集英社文庫)でデビュー。タイ国立チェンマイ大学日本語講師を経て、ノンフィクション作家となる。著書に『アヘン王国潜入記』(集英社文庫)、『西南シルクロードは密林に消える』(講談社文庫)ほか多数。『謎の独立国家ソマリランド』(本の雑誌社)で講談社ノンフィクション賞、梅棹忠夫・山と探検文学賞受賞。

●かくはた・ゆうすけ
1976年、北海道芦別市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、朝日新聞社に入社。同社退社後、チベットや北極圏を中心に探検活動を続ける。『空白の五マイル』(集英社文庫)で開高健ノンフィクション賞、大宅壮一ノンフィクション賞、梅棹忠夫・山と探検文学賞受賞。『雪男は向こうからやって来た』(集英社文庫)で新田次郎文学賞受賞。『アグルーカの行方』(集英社)で講談社ノンフィクション賞受賞。

最終更新:2014/07/29 21:00
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