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深読みCINEMAコラム【パンドラ映画館】vol.279

母よ、あなたは誰よりも美しく、逞しかった! 社会派コメディ『ママはレスリング・クイーン』

wrestlingqueen03.jpgフランス映画界の名花ナタリー・バイ(65歳)が宙を舞いながらのリングイン。堂本光一もびっくりするド派手な入場に観客はやんやの大喝采。

 ルドニツキ監督にとって念願の映画監督デビュー作となった本作だが、それ以前はテレビドラマの脚本や演出を長年手掛けてきた。人気シリーズ『女警部ジュリー・レスコー』など女性を主人公にしたエピソードが多かったそうだ。結婚、出産、子育て、介護などの問題を抱え、男よりも人生の岐路に立つ機会の多い女性の生き方に興味が湧くという。「僕は女性が大好き。だから、女性のセクシーさやグラマラスさをより強調できる女子プロレスを題材にしたんだ」と笑いながら語るルドニツキ監督だが、彼自身の体験も本作には投影されている。

ルドニツキ「父の時代は正社員としての正規雇用が当たり前だったけど、今はもうそんな時代じゃなくなった。毎日がリングと同様に戦いの連続。テレビドラマの脚本や演出で僕は食べていけるようになったけど、それまでは幾つものバイトをして喰い繋いだんだ。ホテルのフロント係、列車の清掃員、それにカフェの店員やレジ打ちもやった。職場で出会ったいろんな人たちとの経験を作品に活かしているんだ。ローズたちにとってプロレスが生き甲斐になっていくように、僕にとっても映画館で映画を観ることが唯一の息抜きであり、映画づくりは長年の夢だったんだ。また、今回のロケ地であるフランス北部はかつてプロレス人気が高かった地域であり、僕が生まれ育った場所でもある。今回の作品には僕自身の少年時代の記憶も投影されているよ。僕の父は軍人で家にいることがほとんどなく、母親が僕ら3人の子どもの世話をひとりで看てくれたんだ。父が浮気していたかどうかは分からないけど、コレット家は僕の家族がモデル。自分で言うのも何だけど、僕の母はナタリー・バイに似ていると思うよ(笑)」

 クライマックスは、メキシコから来襲した巨漢ヒール軍団との対抗戦だ。リングシーンは、フランス人らしいルドニツキ監督の女性へのリスペクトがいっそう注がれる。曲がったことが嫌いなコレットは赤いマントを翻したワンダーウーマンの衣装で、宙を舞いながらのリングイン。男たちの間をクールにさすらうジュシカは西部劇の早撃ち女ガンマンのスタイルで登場。いわば、彼女たちは自分の理想像を体現したコスチュームで戦う。とはいえ、必ずしも自分の理想像がすんなり観客に受け入れられるとは限らない。リングとは、レスラーの抱くエゴと観客側が求めるニーズとのせめぎ合いの場でもある。だが、レスラーの思い描く夢と観客が求める夢とが共鳴した瞬間、リングはとんでもないワンダーランドと化す。ベビーフェイスもヒールも関係なく、リング上のレスラーたちみんながまぶしく輝き始める。息子に振り向いてほしいという単純な理由からローズが始めたプロレスだったが、今では町中の人たちがすっかり夢中なっていた。

 女同士の意地の張り合いが続く激しい攻防の中で、ローズは敵レスラーの必殺技を真っ正面から受け止めてみせる。相手の技から逃げずに全身で受け止めてこそ、真のプロレスラーである。デビュー戦ながら、ローズが本当のプロレスラーになった瞬間だ。ズタボロになったローズの耳に男の子の声援が届く。それは自分のことを嫌っていた息子の声だった。そのときのローズは、世界にたったひとつしかないチャンピオンベルトを手にしたような気分だった。
(文=長野辰次)

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『ママはレスリング・クイーン』
監督/ジャン=マルク・ルドニツキ 出演/マルリー・ベリ、ナタリー・バイ、オドレイ・フルーロ、コリンヌ・マシエロ、アンドレ・デュソリエ、イザベル・ナンティ 協力/WWEスタジオ 配給/コムストック・グループ 7月19日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー 
(C)2013 KARE PRODUCTIONS – LA PETITE REINE – M6 FILMS – ORANGE STUDIO – CN2 PRODUCTION
http://wrestlingqueen.com

最終更新:2014/07/17 18:00
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